79.失われた魔法
「あ~あ……ルネちゃん可愛かったなぁ……」
頬ずりされてから一日、私たちは衛兵が常駐している町で指名手配の盗賊団の事を報告した。
褒章は誘拐されていた山猫獣人の少女の家族と、村人の代表である村長さんに半分ずつ渡してほしいと伝えておいたので損害の元は取れるだろう。
まだ明るい時間だったので、食料をいくつか買い足して出発したらルネちゃんを思い出して漏れたひと言だった。
するとアーサーが目の前にちょこんと座り、小首をかしげてつぶらな瞳で私を見上げる。
「どうしたの?」
『我も可愛いのであろう? 撫でてよいのだぞ、それが主の特権というものだ』
そう言ってころりとお腹を見せて転がった。
もしかしてヤキモチ!?
自分の方が可愛いアピールなの!?
「も~ぅ、アーサーも可愛いに決まってるでしょ~? 可愛い可愛い、うふふふふ」
「ははは、アーサーてばヤキモチやいたの? 可愛いなぁ。だけど小さい時なら何もしなくても可愛かったよね」
あっ。
リアムがあっさりと禁断のひと言を言ってしまった。
確かにたまに小さい頃の姿が恋しくなったりしたけれど!
ひとまず成長を喜んであげるのが家族というものでしょう!?
『ふむ、なるほど。小さいからこその可愛さか……。これでどうだ』
アーサーは起き上がり、上を見て考えていたかと思うと赤ちゃんの時の姿なった。
「えぇっ!? 小さくなった!! どうして!? 何をしたの!? はわわわ、やっぱり可愛いぃぃぃ!!」
久々に見た小さいアーサーに興奮してしまった。
やはり可愛いは正義。
『変身魔法というやつだ、やろうと思えばどんな姿にもなれる。覚えればサキも使えるぞ』
「うわぁ、面白そう! それじゃあ私が今のアーサーみたいな姿にもなれるって事!?」
『可能だ』
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!! 変身魔法? そんなの聞いた事がないぞ!?」
私達の会話を聞いて、オーギュストが焦り始めた。
「聞いた事がないって? だってこうしてアーサーが変身してるけど……。 ねぇ?」
アーサーを見ると、コクリと頷いている。
「だから驚いているんだよ! これはまさか……」
「「失われた魔法……」」
オーギュストとアルフォンスの声が重なった。
二人共赤ちゃん姿のアーサーから視線が外せず固まっている。
「失われた魔法ってアルフォンスが研究者になりたいって思ったきっかけじゃなかった?」
「ん、確かにそう言ってた」
リアムとユーゴが頷きあっている。
「へぇ、そうなんだ。アーサーは確かこの世界の知識はあるって前に言ってたし、他の失われた魔法も使えるんじゃない?」
『使えるのだろうな。ただ、どれがそうなのかわからん。ゆえに普段使わぬ魔法はないという事でよかろう』
寝そべってフンと鼻を鳴らした。
どうやら面倒臭いようだ。
感情を食べない私でも、アーサーの気持ちはなんとなくわかるようになってきたなぁ。
『やはり主は小さい姿の我の方が好きだったのか……。ならば普段からこの姿でいてやろう』
「ハッ!」
どうやら無意識にアーサーを撫で回していたようだ、どうりで手が幸せな気がしていたはずだよ。
抱き着きやすい大きいアーサーもいいけど、やはり赤ちゃんのコロコロしてて柔らかい毛並みの魅力には抗えないよね!
拙作をお読みいただきありがとうございます!
他サイトでアーサーの声のイメージを若本ボイスにしてしまい、笑っちゃうというコメントをいただきました。
わかりやすく言うと、ドラゴンボールのセルや、以前のサザエさんのアナゴさんですね。
時々アーサーのセリフ書いてる時に思い出して、若本ボイスが聞こえてしまい笑いながら書いてました( *´艸`)
本当は井上〇彦さんみたいなさわやかイメージだったんですけどねぇ……w




