78.眷属化
「サキはすごい魔法使いだったんだな」
馬車の荷台でルネちゃんの頬ずりの余韻に浸っていたら、シリルがポツリと呟いた。
「そりゃあ一応聖女様って事になってるくらいだからね。だけどアーサーの方が強力な魔法を使えるよ」
『確かに我は強力な魔法を使えるが、恐らく主の方が多彩な魔法を使えるはずだぞ。主は我が使える魔法は全て使えるはずだが、我は我が必要としない治癒魔法などは得意ではないからな」
「そういえばアーサーは治癒魔法使わないもんね、怪我したとこ見た事ないし」
『ふふん、我をその辺の脆弱な者達と一緒されては困る。世界に唯一のフェンリルなのだからな』
ドヤァと胸を張ったので、反射的に顎下から胸元ワッシワッシと撫でる。
ルネちゃんも可愛かったけど、やっぱりアーサーも可愛いなぁ。
「そういうのも羨ましいんだよ。オレ達に聞こえないフェンリルの声が聞けたり、特別な者って感じがするよな」
おっとぉ? まさかの厨二病的な感性が爆発しているのか!? 今は十六歳らしいけど、育った環境的に少し幼いとしたら可能性はある。
眼帯か包帯をプレゼントしたら喜んだりして。
『我の声を聞きたくば眷属化をすればよい。いわゆる隷属の契約みたいなものだが。その代わり我と主に忠誠を誓ってもらわねばならぬがな』
「へぇ、そんな方法があるんだ」
私の従魔のアーサーの下につくから、間接的に私とも契約している事になるのか。
そんな会話をしていたら、オーギュストが喰いついてきた。
「どうしたんだい? もしや我々でもアーサーの声を聞く手段があるのかい?」
少年のようにキラキラした瞳でアーサーを見ている。
「あのね、眷属化をしたらアーサーの声が聞こえるようになるんだって。ゆるい隷属の契約みたいなのらしいけど」
私が説明するより早く、リアムが通訳した。
「ふむ、隷属の契約か……。サキが主なんだからアーサーが無茶な命令をする事はないだろう。よし、アーサー、私を眷属化してくれないか? 実際眷属であるマティス達もかなり自由にしているから、生活に支障がでるような制約は無さそうだしね」
「それなら俺も眷属化してもらおうかな。研究を続ける上で、アーサーの話を直接聞けるというメリットは大きいからね。シリルが来るまでは俺達親子だけが疎外感を味わっていたけど、今後は二人きりでも会話ができるだろう?」
どうやらオーギュストだけでなく、アルフォンスも眷属化してもらいたいらしい。
それだとシリル一人だけアーサーの声が聞こえないっていう状況になっちゃうんじゃ……。
ところが私の心配をよそに、シリルは期待に満ちた顔をしていた。
「オレも……! オレも眷属化してほしい!! そうすればオレもフェンリルの声が聞こえるんだろ!?」
むしろやる気満々だった。
『ふむ、ならばそこに並んで頭を垂れてつくばうがよい」
再びリアムが通訳し、ためらいながらも三人は荷台に額をつけて土下座した。
そこへアーサーがテチテチと近付き、順番に前足を頭に置いていく。
『これでよし』
「「「おおおおぉぉ!!」」」
どうやら無事に眷属化ができたらしい。
その後、話せるようになったのが嬉しい三人にずっと話しかけられ、最初に下された命令が『黙れ』となった。




