73.空間収納の容量
『主よ、我がフェンリルである事を明かせ。それとも探索中に死体となって発見されたいのかと言ってやってもよいがな』
「やだよ。それで普通に本人達のヘマで死んだのが私達のせいになるかもしれないでしょ? あまり強くなさそうだからいつ死んでもおかしくなさそうだし。一応この場は警戒するけど」
冒険者達が襲ってこないとも限らないので、身体強化を発動させておく。
「なんだぁ? 今何つった? さっきから一人でブツブツと気味悪ぃな!」
一人が私に向かって拳を振り上げた。
ここは華麗にかわすか、それとも拳を受け止めて握力でそのままギリギリと……。
場数を踏んできたせいか、こんな状況なのに私も結構余裕だ。
よし、拳を受け止めるコースにしよう、そう思った瞬間、その冒険者が視界から消えた。
「あれ?」
ガターァァァン!!
ズザザザザ……。
なんかどこかで聞いた音が。
あ、そうか、アルフォンスが吹っ飛ばされた時に聞いた音だ。
「サキに手を出すのはゆるさない」
すぐ横で聞こえたのはユーゴの声。
い、今ゆるさないって言った!?
また大変な事になると慌てたが、リアムが私の肩に手を置いて落ち着かせた。
「今の言い方なら大丈夫だよ。だからほら、ギルドに被害が出ないように外に吹っ飛ばしてる。ひと言だけの時が危険な合図だからね」
「な、なるほど……。だけどギルド内でケンカはご法度なんじゃないの?」
「それはたぶん大丈夫だと思うよ」
西部劇なんかでよく見る外にも内にも開くギルドのドアが、まだキィキィと音を立てて動いている。
その向こうから吹っ飛ばされた冒険者が、顔を腫らしてヨロヨロと戻ってきた。
「チクショウ……やりやがったなァ……!」
「そこまでです! あなた達からそこのお嬢さんに絡んだのは見ていましたよ!」
止めに入ったのはギルドの職員のお姉さん。
どうやらマティスが最善策として、カウンターで報告してくれたらしい。
それにしても止めてもらえてよかった。
私達じゃなく、絡んできた冒険者達からしても命拾いしたといえよう。
四人のあの殺気に気付かないなんて、冒険者辞めた方がいいと思うなぁ。
その証拠に、他の冒険者は我関せずというより、関わりたくなくて見ないフリをしていたもんね。
結局三人の冒険者はそのままギルド職員のお姉さんと、その後ろに立つ元冒険者っぽい強面のおじ様の圧とお説教に耐える事になったようだ。
私達はというと、無事にシリルの冒険者証を手に入れて冒険者ギルドを出た。
首から下げた冒険者証を、嬉しそうに掲げてはひっく返したりして眺めているシリルにほっこりする。
皆から見られている事に気付いてハッとしてたけど。
「さて、あとは食料調達だな。一応この先数日は一日の移動でいくつかの町や村を通るから、大量に買う必要はないぞ。サキが空間収納に入れておきたいのなら止めないが」
「空間収納ッ!?」
マティスの言葉に反応したのはシリル。
難しいらしいから驚いたようだ。
「うん、アーサーに教えてもらって、今は容量を大きくしてるところなの。まだ少ししか入らないんだ、せめて馬車の荷台くらいは入れたいんだよねぇ」
「なん……、そんな容量なら商人として天下取れるだろ!? 小さくても空間収納を持ってるだけで商家から引っ張りだこらしいぞ。金貨だけでも収納できれば安心だからな。宿屋に泊まる客の話しかしらないが、宮廷魔導師でも普通の猪一体分らしいし。…………ちなみに今はどれくらい入るんだ?」
「え~っと……、正確に試した事がないから微妙なんだよね」
『今の主は猪で言えば二体分だ。シリルが騒ぐと面倒だから誤魔化しておいた方がよかろう」
「だね。今から買うご飯くらいは入ると思うよ」
アーサーの意見に頷き、あいまいに答える。
「だよなぁ、さすがに聖女様とはいえ、宮廷魔導師には及ばないか。ははは」
数分後、美味しそうな屋台につられて大量に買い込む私を見て、シリルは顎が外れたみたいにずっと口を開けていた。




