72.イサカの町の冒険者ギルド
「いや~、買った買った! やっぱり買い物はストレス解消になるねぇ」
『うむ、これまでとはまた違った美味い感情だな、主』
私達が捕まえた奴隷商人は、指名手配がかけられていたらしく、結構な報奨金が出ると聞いたのでシリルの日用品を主に買い込んだ。
シリルはずっとただ働きさせられていたせいで、身の回りの物は最低限だったし、今回は荷物を持って出る余裕もなかったからね。
「悪い……、仕事が見つかったら働いて返す」
「そんなのいいよ! ねぇ、マティス? ずっとあの二人に大変な目に遭わされてきたんだから、その報奨金の半分はもらってもバチは当たらないよ!」
「そうだな。半分は引き渡しをしてくれたオーギュストに渡すとして、残りはシリルの分と考えてもいい。私達はこれからも冒険者としていくらでも稼げるしな」
「それならオレも冒険者登録したい! その、自分でも稼ぎたいし……」
勢いよく言ったものの、何の経験もないせいか自信がなさそうだ。
獣人なら身体能力でそれなりに活躍できそうだけど。
「ではここで登録をしておいた方がいいかもしれないな。この先しばらく大きい町はないから」
オーギュストのアドバイスに従って、シリルはこの町の冒険者ギルドで登録する事にした。
「ここの冒険者ギルドはサショイノ王国側の門の近くにあるはずだ。三国の国境にある山でいい素材が手に入る魔物が出るらしいからな。まぁ、そっちは高ランクの魔物がいるからこそなんだが」
そしてやってきた冒険者ギルド。
馬車はオーギュスト達に任せて五人でやってきたのだが、シリルは初めてなせいか、すごく緊張しているのが伝わってくる。
「大丈夫だよ、私達が……っていうより、マティスがいれば問題ないって!」
「どうかな? モヨリ―だと顔も名前も知られていたが、他国で通用はしないと思うが」
せっかくシリルを励ましていたのに、マティスが不安になるような事を言い出した。
『心配あるまい、強者は強者を感じ取るものだ。もし絡んできたとしたら、相手にもならん小物だろう。我が出るまでもなく、マティスどころかリアムでもユーゴでも片付けられるであろう』
フンと鼻で笑うアーサー。
確かに双子もランク自体はCらしいけど、身体強化使ってる時はBランクでも通用するくらいだもんね。
シリルも身長は百八十センチくらいありそうだし、舐められる事はないと思う。
…………そんな事を思った時もありました。
現状を説明すると、マティスはもちろん双子もシリルも冒険者達から対等に見られている。
つまり問題は私だったのだ。
「嬢ちゃんみたいな子がこんなところに何の用だい?」
「護衛が必要なら俺達がしてやろうか?」
「あんな獣人より人族の方がいいだろう?」
マティスとシリルは登録のためカウンターに、双子は売店の品揃えを見たいというので、アーサーと一緒に依頼掲示板に張られている依頼の種類を見に皆と離れた瞬間コレである。
そうか、モヨリ―だと私も存在を知られていたけど、ここでは迷い込んだ小娘に見られるのか。
アーサーが一緒なんだけどなぁ。
『こ』
「殺しちゃダメだよ!?」
『何を言っている、さすがに我もここではまずいとわかっておる。こらしめるかと聞こうとしたのだ』
「あ、なぁんだ」
ホッとしたのも束の間、冒険者の三人がニヤニヤしながら私とアーサーを取り囲む。
「おいおい、聞いたか? 俺達を殺す気だったらしいぜ?」
「この犬ッコロがか~? やれるもんならやって……み゛ぃぃッ!?」
「どうした!?」
「痛ぇ、痛ぇよぉ」
アーサーを蹴り飛ばそうとした冒険者が、アーサーの防御力に負けて足を怪我したらしい。
しかし、仲間の冒険者は演技で痛がるフリをしていると思っているようで、ニヤニヤとイヤらしく笑っている。
「おいおい、嬢ちゃん、この落とし前はどうつけてくれるんだァ?」
彼らにはとりあえずこちらを見ている獣人四人に気付いてほしい。




