69.図星を突いてはいけません
「大丈夫!? モヨリ―にいた、あの冒険者がここに来てたなんて事はないよね!?」
駆け寄って隣にしゃがみ込むと、アルフォンスは上半身を起こした。
「ああ、サキ達も来たのか。いやぁ、つい正直に言ってしまっただけなんだけどね」
「何を?」
「サキの料理の方が美味しいって……ね」
器用にパチンとウインクをする。
あまりの可愛さに抱き着きそうになっていると、店から一人の体格のいい三十代くらいの男性が出てきた。
「ウチの味に文句があるなら来るんじゃねぇ! 帰れ!! ……ん? 何だあんた」
私の存在に気付いて、男性が声をかけてきた。
「ふふ、この子が俺の舌を満足させる料理を作る子さ。以前はそうでもなかったのに、サキのせいで舌が肥えてしまったんだ、それは罪じゃないよな?」
アルフォンスが男性に私を紹介する。
私の料理の腕はそこまで上等なものじゃないけど、日本で食べていた料理になんとか近付けようと研究していたせいか、マティス達もモヨリ―の食堂で食べるより美味しいって言ってくれていた。
「確かにむしろ私の罪かもしれないけど……、そう思ってもお店の中でそんな事言っちゃダメだよ。この店の味が美味しいと思って通ってる人もいるんだろうから」
「だからついポロッとね。言うつもりはなかったんだ。たまたま心の声が漏れたところに彼が後ろを通ったらしくて、いきなり外に引きずり出されたかと思ったら、投げ飛ばされたのさ」
立ち上がり、土埃をパタパタと払うアルフォンス。私も一緒に払ってあげる。
そういえばお店の人はまだ入り口にいるのかと視線を向けると、下唇を噛み締めて泣いていた。
「ふぐ……っ、お、俺だってわかってる。今の客は親父の友達だから義理で通い続けてくれてるだけだって。それ以外の客は味が落ちたからって他の店に行っちまったしよ。けど、ちゃんと親父の味を習う前に死んじまうなんて思ってなかったんだ!!」
なるほど、元々父親がやっていた店を、父親が亡くなって突然継ぐ事になったけど、腕が追いついてなくて客が離れて行ったと。
そこへ運悪くアルフォンスの呟きでコンプレックスを刺激されてしまったと。
「ああ……、それはアルフォンスのタイミングが悪かったねぇ。自信を持ってる時なら気にしなかったかもしれないけど、気にしてる事を言われたら怒るよ」
「ああ、だから素直に投げられてあげたのさ。いくら本当の事を言ったのだとしてもね」
ヒョイと肩をすくめるアルフォンス、また余計な事言って!
そうたしなめようとしたら、男性がビシィッと私を指差した。
「あんたが俺より料理が上手いってやつなんだろう!? だったら俺と勝負しろ!!」
「えっ!? ちょっと待って、今いるお客さん放っておいていいの!?」
「大丈夫だ、さっきも言った通り、今いる客は猩猩獣人以外、俺の親父の友達ばかりだからな」
「え~……」
『ふははは、よいではないか主よ! 店の中いる者達も、この状況を楽しんでおるぞ!』
口の周りを舐めながら、飛び跳ねるようにテチリテチリと肉球を鳴らしてアーサーも楽しんているようだ。
馬車の御者席にいるマティスとアイコンタクトを取り、私達は同時にため息を吐いた。




