66.奴隷商人
「おい、いつもの二人はどうした? しかも馬車が変わってるじゃねぇか、片方の馬はそのままだけどよ」
私達が身を隠してしばらく進むと、前方からそんな声が聞こえた。
声の感じからして、二十代後半から三十代くらいの男性のようだ。
「馬は一頭死んだ。女将達は団体客が来たから対応のために残ってる。団体客の中から選んできてるから、オレも早く戻りたいんだ」
「……ふん。おい、商品を運べ」
男の命令で二人が荷台の方へ回ってくる足音がしたので、慌てて身体強化を発動させた。
私は荷物……、私は荷物……。
外套のフードを被り、荷物になりきって気配を消してみた。
できてるかどうかわからないけど。
「おいおい、たったコレだけか? ん? この袋二人入ってねぇか? くっ、重ぇ……!」
一人が女将達が入った麻袋を持ち上げようとした瞬間、辺りが暗くなった。
「おいっ、灯りを消すんじゃねぇ!」
最初に声をかけてきた男が騒ぎ出した、どうやらシリルが魔導具の灯りを消したようだ。
それと同時にマティス達が荷物の陰から飛び出して行き、周りから衝突音がいくつも聞こえる。
「なんだお前ら!! 野郎共! 獣人を捕まえぐぁっ!!」
『なんだ、我が出るまでもないではないか。まぁ、大人数で行動すると目立つからと、たった五人で行動しているようだからな』
「あ、本当に五人だけなんだ。だったらこっちの人数の方が多いね」
「おい! 今女の声が聞こえたぞ!! 馬車の中だ! 引っ張り出せ!!」
あわわ、見つかっちゃった!
手で口を押えたけど、もう今更だ。
ほとんど見えない暗闇の中、奴隷商人の仲間が馬車の荷台に上がってきた。
「させない」
すぐ近くでユーゴの声がしたと思ったら、荷台に上がってきた人影が吹っ飛んだ。
「何なんだてめぇら!!」
気付くと、男達の声は一ヶ所から聞こえていた。
ヒョイと外を覗くと、星の光でうっすら人が固まって座っているのが見えた。
「『灯り』…………結構ハデにやったね」
灯りの魔法で照らされた男達は、全員ボコボコにされて縄でしばられている。
「さて、お前達の拠点はどこかな? 正直に話さないと、足や手の指が順番にこうなるぞ」
「「「「「ひぃっ!!」」」」」
オーギュストが地面から小石を拾うと、指先で粉々に潰して見せた。
力が強いのは知ってたけど、すご過ぎない?
「そういえばアーサー、悪い奴らが近くにいるけど、体調は大丈夫?」
『こやつらは存外小物のようだから大丈夫だ。我らの数が多いというのもあるかもしれんが』
「よかった。アーサーには苦しい思いをしてもらいたくないもの」
私とアーサーがイチャイチャいている間に、オーギュストは着々と尋問で情報を引き出していた。
キエルの村のような拠点かと思っていたら、もっと中央寄りの大きな町が拠点らしい。
田舎過ぎると買い手がいないからだそうだ。
そして幸いな事に、奴隷商人と衛兵達の癒着はないらしい。
「という事は、このまま拠点のある町まで連れて行って引き渡せばいいだけだな。この二人と一緒に」
オーギュストが麻袋から二人を引っ張り出すと、改めて縄で縛った。
麻袋の中身が女将と料理人と知った奴隷商人達はだましたな、とか騒いでいるけど、そんな事言う資格はないと思う。
「では彼らの使っていた馬車に引き渡す者達を乗せて、私とアルフォンスで連れて行こう。女将達が目を覚ました時にシリルも仲間だとか言い出したら面倒な事になりそうだからね。彼らを引き渡し終わったら合流しよう、マティス達なら私達を探せるだろう?」
「わかった。すまないな、では頼む」
「任せてくれ」
オーギュスト達の荷物を渡し、しばらくの間別行動することになった。
サショイノ王国以外の国は初めてだから、物知りなオーギュストと離れるのはちょっとドキドキする。
こっちの国はどんな国なのか楽しみだ。




