61.罠
リアムとユーゴには携帯用の水袋の水を飲むように言って、部屋に向かう。
どうやらすでにマティスも話し終わっていたようで、先に部屋にいた。
『それで、あやつらを捕らえてどうするのだ? 殺すか?』
「いやいや! それはダメだよ!?」
アーサーは時々、殺して解決的な事を言い出すから焦る。
『ではどうするのだ?』
「そりゃ部屋に鍵をかけて眠ったフリして、侵入してきたら捕まえるのが一番でしょ。それがなによりの証拠になるし。それでここの従業員とか、村ぐるみで襲ってきても私達なら返り討ちにできると思うし」
「やつらの感じからすれば、私達獣人には興味がなさそうだったな。恐らく狙われているのはサキだけだろう。水差しに睡眠薬を仕込んでいるのなら、他に薬を使う事はないと思うが、一応解毒ポーションを持っておくか?」
マティスが荷物から解毒ポーションの小瓶を出した。
「ふふふ、解毒魔法も習得済だから大丈夫だよ。ポーションはマティスが持ってて。いざとなったらアーサーが助けてくれるし、ね?」
『当然だ』
視線を向けると、ドヤァと胸張るアーサー。
こういう仕草は身体が大きくなっても変わらない。
「じゃあ、私とアーサーが一緒に寝てたらアーサーを警戒すると思うから、マティス側のベッドの陰に隠れて寝てね」
『うむ、仕方あるまい』
そうして眠ったフリをして待つこと数時間。
…………ごめんなさい、普通に眠ってました。
小さくカチリと解錠される音がして、人が三人入ってくる気配。
室内はうっすらと月明りが入っているだけで、人や家具の形がなんとなくわかる程度。
そっと近づいてきた人影が私の腕を掴む。
ちなみにここまで私は眠っていたので、後からマティスとアーサーに聞いた話だ。
『主。……主? 本当に寝ているではないか! 仕方あるまい、『灯り』! 主、起きよ!』
一瞬目を閉じていても眩しいと思うほどの光量の魔法が放たれた。
アーサーの声で覚醒したものの、寝ぼけていたせいで思い切り光を見てしまった。
「ハ……ッ!? ぐぁっ、眩しい!!」
「「「目が! 目がぁぁあ~!!」」」
私だけでなく、アーサーの声が聞こえない侵入者まで、某大佐の如く目を押さえて悶えている。
実際は侵入者に対する目くらましのつもりだったのかもしれないけど。
『本当に寝てしまった主が悪い!』
「そうだぞ……!」
巻き込まれたマティスからもツッコまれた、しかしマティスはちゃっかり腕で影を作って光の直撃を免れている。
獣人だから夜目がきく分、ダメージも大きくなっちゃうもんね。
光量が落ち着いて蛍光灯くらいの明るさになった時に確認できたのは、やはり宿屋の人達だった。
「お、おや、お客さん起こしてしまったかい? 夜中に目が覚めた時のために水差しの水を足しておこうと思ったんだけど……、必要なさそうだねぇ。それじゃ……」
言い訳をして出て行こうとする女将、そして料理を作っていた人と……痛みをこらえるような顔をしているシリル。
しかしドアの外にはすでにリアムとユーゴがいて、退路を断っていた。




