57.行き先決定
昨夜は母親が唐揚げ詰め放題の袋を少しでも多く入れるために引き延ばして、大量ゲットしている夢を見た。
そして目覚めた時には空間収納のスペースが広がっていたのは偶然だろうか。
魔法ってイメージが大切だとアーサーが言っていたから、とりあえず心の中で母親に感謝しておこう。
そんな朝を迎えたオキイの町。
王都を飛び出して夕方に到着した町である。
オキイの町にもすでに聖女とフェンリルの噂は届いていたけど、アーサーが大きくなった事でチラチラ見られることはあっても騒がれる事はなかった。
きっと小さいままだったら、すぐにフェンリルとバレて囲まれていたかもしれない。
あれ? フェンリルって人気者だっけ?
眷属達とか王家とか神殿だと伝承が残ってるみたいだったけど、一般的にフェンリルはどう思われているんだろう。
泊まった宿屋での朝食の時、一番知っていそうなオーギュストにこっそり聞いてみた。
「フェンリルの一般的な認識かい? 一番多いのはやはり神獣だろうか、創成神が遣わした聖なる獣ってね。だけどそれはこの国だけの話で、国や地域によっては全く違う伝承が残っていたりすんだよ」
「へぇ、どうしてだろう」
「うん、いい質問だ! これは私が調べていく間に気付いたんだが、どうもフェンリルは世界に点在するいくつかの森に顕現する事がわかっている。しかも一度顕現した森に再び顕現した事はないんだよ、その上千年に一度だけなのに、これまで百年もせずブラックフェンリルに変貌して国々を滅ぼしているんだ。しかしその」「その辺にしておけ」
段々ヒートアップしてきたオーギュストをマティスが止めた。
これはあれだ。オタクが自分の好きな事を語り出したら、早口でしかも止まらない状態。
『だがオーギュストが言っている事に間違いはないな。マティス達の集落に住んでいた事といい、我らフェンリルに特化して研究をしていたのであろう。せいぜい五千年前、もしかしたら二千年前までにフェンリルが顕現した国でないとまともに伝承も残ってないかもしれぬ』
確かに日本も文字がない時代の資料は、中国からの使者が書いたものなんだっけ?
だから卑弥呼も女王なのに音を優先したせいで、当て字で卑しいって字が使われているんじゃないかって説があるもんね。
文字があっても平安時代のどころか江戸時代の本も読めないんだから、伝承がまともに残ってる方が珍しいのかもしれない。
だとしたら、私の前に転生したっていう女性の事は知る事ができないんだろうか。
「ねぇ、行き先って決まってないんだよね? 前にアルフォンスが……えっと、審判者? って言ってた人の事を知りたいな~って思うんだけど、さすがにもう伝承とか残ってないかな?」
「いいや、残っているとも。だからアルフォンスもその存在を知っているんだよ。確か今もその審判者の血縁者の子孫が存在するらしい。恐らくこの世界が存続しているのも、その子孫の存在が大きかったんじゃないかとも言われているんだ」
「オーギュスト」
「おっと、いかんいかん。私の悪いクセでね、伝承や歴史の事を話していると夢中になってしまうんだよ」
マティスに名前を呼ばれ、オーギュストは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「しかしこれで行き先は決まったな。審判者が最後に住んでいたという森のある国……マジョイル公国へ行こうか。あっちに向かうと、サショイノ王国を出るのは一週間後になるか」
「「「「賛成!」」」」
満場一致で行き先が決まった。
それにしても、この国の名前サショイノ王国っていうのか、初めて知ったよ。




