56.国外脱出に向けて
ゴトゴトと石畳の上を走る荷馬車、いつもと違うのは荷台がツボなどの壊れ物専用に変わっている。
王都で貴族が使うような、向かい合わせの座席の馬車に買い替えようという話も出たが、人数的に荷馬車の方が融通がきくのでサスペンションのきいた高級荷台に交換したのだ。
どうして買い替えたかというと、このまま国外へ出る事が決定したから。
一度集落に戻ろうかという意見もあったけど、貴族や神殿の関係者が待ち構えている可能性があったので却下された。
寝袋を敷いて更に快適になった荷台でやっているのは、私の魔法の訓練である。
今習っているのは空間収納、フェンリルであるアーサーはその身ひとつでどこにでも順応できるから使わないので覚えてないが、やり方は知っているというので教わって練習しているのである。
「やっぱりオイラには無理だー!」
「僕も無理」
「空間収納は高位魔法に分類されるからね、普通はできなくて当然さ。適性と繊細な魔力操作が必要らしいから」
アーサーの話している事がわかる双子も一緒に挑戦していたが、二人はどうやらギブアップしたらしい。
オーギュストが諦めた二人を慰めている。
私は何となく感覚がわかりかけていて……。
「あっ、入った!」
「「「「えっ!?」」」」
私の言葉に荷台にいた皆が驚きの声を上げた。
練習に使っていたタオルが収納できたのだ。
『ふふん、我と契約している上、創造神から茶をもらったと言っていたからな。今の主であればどんな高位魔法も使いこなせるだろう』
「ふぉぉ……! 私、チートを手に入れちゃった!? でも、あんまりたくさんは入らないみたい」
『当然だ。熟練度が上がらねば空間は広がらぬからな。使っていれば段々要領がつかめてくるはずだ』
「すごいね、サキ! 容量が大きくなったら、食料とか大きい町でまとめて買ったりできるんじゃない!? そうすれば変な村に泊まらずにすむね! オイラ達はともかく、サキは可愛いから心配だよ」
「変な村?」
「うん、たまに小さい村全体で人を攫って、奴隷商人に売るようなところもあるらしいから。アーサーがいれば感情がわかるし、そういうところに引っかる事はないと思うけど知っておいてね」
「ん、町や村によって治安が全然違う」
「へぇ、わかった、気を付けるよ」
というか、奴隷がいる事にびっくりだ。
これまで奴隷らしき人を見た事がなかったし。
「サキなら攻撃魔法も使えるから大丈夫だろう。話していた魔力封じの魔法陣なんてものは、それこそ王城や由緒ある神殿にしか残ってないだろうから」
少し二人の話を聞いて不安になったが、オーギュストの説明でちょっと安心できた。
確かに魔力を封じられさえしなければ、私一人でも並みの冒険者や魔法使いなら撃退できそうだもんね。
「今日はあの町で宿泊しよう」
御者席からマティスが声をかけてきた。
前方を見るとモヨリ―よりも大きそうな町が見える。
この国を出るまで一週間かかるらしいが、それまで何事もなければいいんだけど……。




