47.魔封じの魔法陣
「何コレ!?」
『これは……魔力封じの……!』
アーサーが床に浮き出ている魔法陣を見て憎々し気にうなった。
「ふっ、ふふふ、魔力さえ封じてしまえば幼体のフェンリルなど子犬も同然。なに、私に一度身を任せれば聖女の気も変わるというもの……」
腐っても王太子というところか、素早い動きでへたり込んだアーサーを部屋の隅にあった箱に閉じ込めてしまった。
『主! 我の事は置いて、一旦引くのだ! マティス達なら後でも我の場所を感じられるはず!』
「アーサー……!」
そんな事言われても、魔力を封じられて苦しそうにしていたアーサーを置いていけない。
それでもなくても身体強化が切れてしまった今、この重い装飾をつけた状態で王太子を振り切ってドアまで行けるか……。
迷ったほんの数秒で王太子に捕まってしまった。
「ククッ、最初から頷いておけばよかったものを」
舌なめずりをしながら私を三人掛けのソファに押し倒す王太子、王太子ってよりゴロツキって言われた方が納得するんだけど!?
倒れた拍子に頭の装飾は外れたけど、ネックレスが重くて身体が起こせない。
「や……っ、離して!!」
『主!!』
「無駄だ、抵抗しない方がいい思いができるぞ? 私が本当の快楽というものを教えてやる」
王太子の吐息が顔にかかる嫌悪感に吐き気がする。
「やだぁぁぁっ!!」
「サキ!!」
壊れんばかりの勢いでドアが開き、サミュエルの声が聞こえた。
次の瞬間には私の上から王太子が消えて、床に転がっている。
「あ……サミュエル……」
名前を呼んだその声は、みっともないくらいに震えていた。
「よかった、間に合った……! 兄上の姿が見えなくて怪しいと思って探していたんだ」
私を抱きしめるサミュエルの声は、私と変わらないくらい震えている。
声だけじゃない、私を抱きしめる腕が、肩が、私を心底心配したと伝えてきた。
「う……っ、怖かった……っ! 助けてくれてありがとう……っ、ぐすっ」
ホッとしたせいで涙があふれたが、すぐにアーサーの事が心配になった。
サミュエルの肩を掴んで目を合わせる、心配に揺れる瞳が嬉しかったけど、今はアーサーだ。
「サミュエル、このネックレスを外してくれる? 床の魔方陣のせいで、今は魔力が封じられて身体強化も使えないから、重くて動けないの」
「わかった。兄上が魔法陣起動の魔導具をもっているはずだ、探せ」
サミュエルは重いネックレスを外してくれながら、騎士達に命令する。
ネックレスが外れて身軽になった私は、急いでアーサーが閉じ込められた箱を開けに走る。
「ありました! 起動を停止します!」
そんな声を背中で聞きながら箱を開けると、ぐったりと横たわるアーサーがいた。




