44.聖女
「え、えーと、これはいったいどういう状況……?」
『主が創造神に呼ばれている間、ずっと身体が光っていたのだ。信託を受ける人間の状態と同じだな』
戸惑っていたら、アーサーが説明してくれた。
という事は話していた数分間ずっと!?
そりゃ人も集まってくるよ!!
ジョエル司祭は祈祷前とは別人のように目を輝かせて、私の前に跪いていた。
ちょっと怖い。
「あなたこそ神に選ばれた、まさしく聖女様です! これは明日の」「ジョエル司祭! 聖女様が神託を受けたというのは本当か!?」
神殿長がドスドスと重そうな足音を立てて走ってきた、歩く速度と変わらないくらいだったけど。
そんな神殿長に、ジョエル司祭はなぜか勝ち誇った笑みを浮かべている。
「ええ、とても神々しい光景でした。祈りを捧げる聖女様のお身体が光に包まれ、周りが騒がしくなっても何も聞こえていないようでした。文献に合った通り、神の庭園に招かれていた……、そうでしょう!?」
「あ……確かに庭園みたいなところでした、四阿があって、そこで創造神とお茶を飲みながらお話しをして……って、そうだ!」
自分の身体をペタペタ触って、どこか変化がないか確認する。
肌がきれいになってる気がするのは気のせいかな、あとは……魔力がいつもより動かしやすい?
『ほぅ、創造神の茶を飲んだのか。道理で魔力だけでなく神力も感じるはずだ』
「神力?」
『うむ、魔力の上位互換のようなものだ。すべてを創り出す魔素により近い力だな』
「へぇ、魔力だけじゃなく、そんなのもあるんだね」
「お聞きになりましたか、神殿長。神力まで与えられたようです。明日のお披露目が素晴らしいものになるのは間違いありませんね」
「そうだな。これで更に寄進が……いや、信者達の信心が深まる事でしょう」
漏れた、漏れてたよ神殿長、本心が。
明後日には出ていくから、神殿内部が腐っていようが関係ないけどね。
「神託を受けたのなら聖女様はお疲れでしょう。しかし王宮からお客様がいらっしゃっていますので、応接室に寄ってからお部屋に戻っていただけますか?」
「わかりました!」
きっとサミュエルだ。
こんなに早く会いに来るなんて、もしかして婚約者候補と話し会って、婚約がなくなったとかかな。
応接室へ向かうあいだ、期待と不安でドキドキしていた。
しかし、応接室で待っていたのはサミュエルではなかった。
サミュエルと同じ金髪碧眼、身長も同じくらいだけど、明らかに年齢が上だ。
「そなたが聖女か! はは、思ったより小さいな。だが悪くない」
なにコイツ、何様?
「ははは、驚いて声が出ないようだな。サミュエルと比べても私の方が魅力的だろう? 私は王太子のジェルマンだ、当然サミュエルから聞いているだろうが」
一方的に話し出し、しかも自分は座ったままで、私には席をすすめる事もしない。
サミュエルからは自分は第二王子だという事は聞いているけど、王太子の名前も聞いてないんですけど。
「…………聞いてませんね」
「ふっ、私に聖女を取られると思ったのだろう。先ほど神託を受けたらしいじゃないか、どうだ、私の妃にしてやろうではないか」
『王太子には正妃がいるのだろう、こやつはバカなのか?』
「ぶふっ、クク……ッ」
アーサーの言葉に思わず笑ってしまった。
ここにいる私以外にアーサーの声が聞こえなくてよかった!
王太子の背後に控えている護衛の騎士とかに聞かれたら、大変な事になりそう。
「思わず笑うほど嬉しいのか、気持ちはわかるぞ」
やっぱりこの人、バカなのかもしれない。




