43.創造神
まるでギリシャ神話に出てくる庭園、その一画にある円形の四阿のような屋根の下にいた。
今私に話しかけたのは、このベンチに座っている創造神像そっくりな人だよね?
アーサーと同じく、声ではなく念話で話しかけてきたみたいだけど。
『咲妃の予想通り、私は創造神だ。とりあえず座りなさい。ここに呼び出したのは少し話さねばと思ったのだ。咲妃がこの世界に来たのは元をたどれば私が原因だ、すまない。しかし……、こちらの世界に転移していなければ神社の階段の下で死んでいたがな」
「えっと……ありがとうございます?」
両膝をついた状態だったので、立ち上がって創造神の向かいのベンチに座る。
どうやら命の恩人らしいのでお礼を言わねばと思ったが、思考がついてこれずに疑問形になってしまった。
『ふふ、あの神社の階段、以前同じように転落しかけた者をこちらに転生させた事があったのだ。その者を引き込んだ時の穴を塞ぎ忘れていてな……』
「え?」
それって今後も転移被害者続出なのでは……。
命の恩人だけど、思わずジトリとした目を向けてしまう。
創造神は目を逸らし、咳ばらいをする。
『こほん。あの次元の穴は地に足をついていれば通り抜ける事はないのだ。階段の上で、しかも半端な位置で宙に浮くのは、変な落ち方をした咲妃と呼び出した者だけだぞ。ちなみに穴はもう塞いだから安心しなさい』
四阿の中央のテーブルの上にあったティーセットのポットがフワリと浮き上がり、いつの間にか私の前に出現していたカップにお茶が注がれた。
「い、いただきます……美味しい!」
ジャスミンティーみたいに花の香りが芳醇で甘やかな味わい、これまで飲んだどのお茶よりも美味しかった。
『アンブロシアを香りづけに使っているから香りがいいだろう』
「ごふぅっ! ゲホッゲホッ……ヒュ……ッ、ゴホゴホッ」
神様の前だというのに噴き出してしまった。
だって、私でも知ってる、アンブロシアって確か不老不死の神の飲み物の材料だったはず!
『ふふ、あくまで香り付けに使っただけで、不老不死にはならないから安心しなさい。先ほど言った転生させた者に一万年の寿命を与えたら……寿命を終えてここに来た時にとても……怖かった。一度母親という立場を経験しているせいなのか、独特の雰囲気があるな。怒るというより叱るという感じで、なぜか反論してはならないと思わされたものだ』
うん、一万年生きろって言われたら、私でもお説教するかも。
そんな事より聞きたい事を今の内に聞いちゃおう。
「あの、一万年前って、あの神社はないはずですよね? それって、時間を飛び越えていたりするんですか?」
『そうだな、咲妃が消えた日から十年ほど前になるだろうか』
「え!? だけど行方不明の話なんて、あの神社で聞いた事ないですよ!?」
『彼女に関する認識に干渉したのだ。咲妃の場合もそうだぞ。いなくなった事をわかっていて、ちゃんとそれに関する処理をしているが、それを不思議と思わなかったり悲しまぬようにな。しかし思い出話にちゃんと咲妃が出てきたりはする、決して存在を忘れられたり悲しんでいたりはしないから安心してよい、だから…………泣くでない』
「うぐっ、ひっく……、ぐすっ」
ずっと、ずっと気になってた。
私が家族に会えないのも寂しいけど、突然私がいなくなったら両親や姉がどれだけ悲しむか。
市内の塾や習い事ですら、暗いと心配だからと必ず車で送迎してくれてたお母さんは特に。
『今回はこの事を伝えるためにここに呼んだのだ、もう下界に戻るといい』
「グスッ……はい、教えていただきありがとうございます」
手の甲で涙を拭い、お礼を言って頭を下げた。
次の瞬間には戻るためなのか、身体がほんのり光り出す。
『そういえば、さっき飲んだ茶は不老不死にはならぬが、人の身で飲むと色々効果があった気がす』
「色々ってなんですか!?」
「戻った!! おお! 聖女サキ様、ご神託を受け取られましたね!?」
創造神の話を聞いていたはずなのに、気付くと大聖堂に戻っていた。
ジョエル司祭の態度が一変しているだけでなく、この神殿に到着した時より多くの人達が集まっているのはどうしてでしょうか。




