37.神殿到着
サミュエルと別れて馬車が走る事十五分、タージマハルみたいな白亜の神殿の前に停車した。
「うわぁ……綺麗な建物……。ここで…………何するんだろう?」
「「サキ……」」
珍しく二人そろって呆れた目を向けられた。
だって、聖女として認められるのって何するんだか……、任命式とか?
入口の前まで来ると、白装束の人がたくさん出てきて花道を作られていた。
「サキ様、到着いたしました。どうぞお降りください」
ドアが開けられ、エスコートの手が差し出される。
ここ数日の間、サミュエルに慣らされたせいで反射的に手を乗せてしまった。
あ、この人、さっき意味深な事を言いにきた人だ。
「お疲れ様でした。本日はお部屋でごゆっくりお休みください。この司祭、ジョエルがお部屋までご案内いたします」
「ありがとうございます」
「皆、この方がフェンリルの主である聖女サキ様と、フェンリルのアーサー様だ。礼を持って尽くすように」
そう私達を紹介すると、わぁっと歓声が上がった。
どうやらかなり歓迎されているようだ。
ホッとして振り返ると、リアムとユーゴがまだ乗っている馬車が動き出していた。
マティスの馬車もその後をついていく。
「えっ!? 二人は……彼らはいったいどこへ!?」
「大丈夫ですよ、聖女様とアーサー様とは休む場所が違うだけですから。彼らは神殿関係者でもありませんからね、外部の方が宿泊できる建物に案内しているだけです」
「あ……、なるほど。では後で居場所の確認に行かせてくださいね」
ニッコリ微笑んで言うと、一瞬だけピクリと眉が動いた。
変な所にマティス達を泊めていたら、お金はあるって言ってたから一緒に町の宿屋に泊まっちゃうもんね。
「承知いたしました、落ち着いてから案内させましょう。まずは聖女様をお迎えするために用意された部屋へご案内いたします」
白装束の花道で、一部不躾な視線を受けつつ神殿の中へと入る。
外から見てもすごかったけど、中も神殿という名にふさわしい装飾が壁や天井に施されていた。
『ふん、取り入ろうとしているのが丸わかりだな。マティス達の居場所の確認をすると言ったのはいい判断だったぞ、主よ』
「ふふっ、でしょう?」
「おや、アーサー様はなんと?」
「他愛ない事ですよ、エスコートされることにすっかり慣れた……と」
さすがに本当の事は言えないので咄嗟にウソをついた。
アーサーはテチテチと私の隣を歩きながら、私のウソにニヤリと笑って私をチラリと見上げる。
数分歩くと、観音開きの豪華なドア前に到着した。
用意された部屋はお約束の天蓋付きベッドから、触るのが怖いような調度品が飾られていた。
「こちらが聖女であるサキ様とアーサー様のお部屋となっております。夕食までしばらくお寛ぎください。何か入用でしたらそちらのベルを鳴らしていただければ、部屋付きの者が参りますので。マティス達にも夕食の時には会えますからご安心を」
「わかりました、ありがとうございます」
「いやぁ、無事にサキ様とアーサー様をお迎えできてよかった。サミュエル王子も無事にお役目を果たされましたから、あとは延期されていた婚約式をなされば更に王家は安泰ですね。ぜひサキ様も祝福してさしあげてください。では失礼します」
そう言って扉を閉めたにこやかなジョエルとは反対に、私の目の前は真っ暗になった。




