33.やる気
「おはようサキ。よく眠れたか?」
ま、眩しい。
昨日改めて意識したせいか、爽やかに朝の挨拶をするサミュエルの笑顔が太陽より眩しく感じる。
「おはようサミュエル、朝食を食べたらすぐに出発するの?」
「ああ、明るい内に王都に入りたいからな。小さい村だとまともな食事が出ないから、少し大きめの町で食事をしようと思うと早めに出た方がいいだろう」
食堂へ続く階段を下りる時、サミュエルがさりげなくエスコートしてくれた。
最初はエスコートされる事になれなくて、ぎくしゃくして笑われていたが、今ではすんなりと受け入れられるようになった。
アーサーは出会った頃よりは少し大きくなったので、階段の上り下りくらいなら自分でできるようになっていた。
最初の一段一段一生懸命上り下りしている姿が見れなくなったのは、ちょっと残念だけど。
朝食を済ませて馬車が待機している場所へ行くと、マティス達がいた。
移動中は話せないので、こういった出発前や休憩の時しか話せない。
私が荷馬車に乗るのも、リアムとユーゴが私達の馬車に乗るのも従者の人達がよく思わないからと却下された。
やはり王族であるサミュエルは獣人の事をよしと思ってないのだろうか。
だけどひと月近く一緒に暮らしている間は、そんな風に見えなかったけどなぁ。
「やっと今日到着するね、皆ずっと荷台で大変だったでしょ」
「オイラ達は慣れてるから大丈夫だよ、それに野営用の寝袋とか持ってきてるから下に敷いてるし。サキこそ大丈夫? いきなり大きくなったサミュエルと二人だろ? 一緒に暮らしてた時みたいには話しづらくなっちゃってない?」
「う~ん……、確かにアーサーがいなかったらそうだったかも。偉大なフェンリルの存在は大きいね~」
『うむ、主もやっと我のすごさを理解してきたようだな』
胸を張ってドヤ顔をするアーサー。ピコピコ忙しなく動いている尻尾が可愛すぎる。
たまらずしゃがみこんで両サイドから顎下をワシワシとモフり倒した。
その様子を遠巻きに見ている白装束の集団。
サミュエルはともかく、あの神殿の関係者と魔導師のおじいさんは苦手なんだよね。
油断だしたら私とアーサーを引き離されそうで。
『主よ、あやつらは気にせずともよい。先代までのフェンリル達は主に足る者がおらず、無理やり隷属魔法で縛られていたが、主がいれば隷属魔法は効かぬから我は安全だ。そして主を不快にさせるなら覚悟をしてもらわねばな。一度我の力を見せつけておいた方がよいか……クックック』
可愛いのに、頼もしい事を悪い顔で言うのが何とも言えない。
マティス達もそうだけど、狼の顔なのに表情豊かなのが不思議な感じだ。
「そういえばサキはアーサーに見本として、大きい攻撃魔法を見せてもらっていたんだったな。私達は遠くから音だけ聞いた事はあったが、見た事がないから少し楽しみだ」
そう言ってマティスもニヤリと笑った。
「マティス、もしかしてあの人達に嫌な事されたり言われたりしてる?」
「いや、ただ神殿の者達は神が人族より後に獣人族を作ったからと、下に見ているのは有名な話だからな。表に出していなくても、言葉の端々や態度からその気持ちが透けて見えるといったところだ」
『ほぅ、今はそんな事になっておるのか……』
どうしよう、マティスの言葉でアーサーが更にやる気を出してしまった。




