32.主
「明日には王都に到着する予定だ。到着したら色々と忙しくなると思うから、今夜はゆっくり休むといい。おやすみ」
チュッ、軽いリップ音が私のおでこから聞こえた。
確かに家では魔力循環のために一緒に寝てたから、アーサーとサミュエルにおやすみのキスをおでこにしていたけど!!
大きいサミュエルになってからは、なぜか私がサミュエルにおやすみのキスをされている。
高級宿のドアが静かに閉まると、私はアーサーを抱きかかえてベッドにダイブした。
「どうしよう!! サミュエルが大きくなってから、めちゃくちゃドキドキさせられてるんだけど!? そりゃあ大きくなったらイケメンになるんだろうなぁとは思っていたけど、そんなイケメンからおやすみのキスとか!! 免疫ないんですけど!?」
『主よ、怒っているような言い方をしているが、ずいぶん喜んでいるではないか。主はサミュエルと番になる気か?』
テチ、と頬に肉球を当てられ、少し冷静さを取り戻す。
「つがい……? 番!? そんな! だって、サミュエルは王子様だし!」
『主も聖女という立場を手に入れるのだろう? 言ったではないか、我の主であれば王の妃の座すら思いのままだと』
「あ、う……、だ、だけどサミュエルが私の事をどう思ってるかもわからないし……」
アーサーは私の腕からスルリと抜け出し、ベッドの上にチョコンと座ると呆れた目を向けてきた。
『感情を食べずともわかるぞ。完全にあやつは主を番にしたがっているように見えるが? 大体馬車に余裕があるのなら、双子くらい一緒に乗せるべきだろう。マティスのように身体が大きいわけでもあるまいし。主を独り占めしたいのか、我の事も隙あらば寝かしつけようとしおる!』
「そ、そっか……、そうなんだ……」
よかった、自意識過剰じゃなくて。
『うむ、我への愛情よりは劣るが、やはりこの感情も悪くない』
ペロリペロリと満足そうに口の周りを舐めるアーサー。
もう慣れてきたけど、自分の感情が筒抜けというのはちょっと恥ずかしい。
『……が、あの神殿の者達や魔導師長とやらは気に食わん。我を見つけたのがサキで良かったと心の底から思うぞ』
「マティス達は? 私が見つけてすぐに来たじゃない? もしかしたらあの集落の誰かがアーサーの主になっていたかもよ?」
『ふん、それはないな、あやつらは我の眷属ぞ。眷属を主にするなどありえぬ』
「じゃあオーギュストかアルフォンスは?」
『あやつらは……なんとなく主にしたくない。だ、第一獣人というのは我らフェンリルがこの世界にいても受け入れられるように神が創り出した者達だからな! 眷属の派生みたいなものなのだ!』
「へぇ~、じゃあ私達が出会ったのはきっと神様が決めた運命なのかもね!」
『おそらくそうであろう、もしかすると神殿に行けば神託が降りるかもしれんぞ。主が異世界からきた時に、何の説明もなかったというのが気にかかっておったのだ』
明日になればその神殿に到着するらしいし、色々な事が変わりそうで眠れなくてアーサーをモフった。
モフりの癒し効果で、いつの間にか寝ていたけど。




