21.迷子のサミュエル
自己紹介をして名前を聞いたけど、少年はアーサーをじっと見ている。
『名も名乗れんのか、躾けのなっていない子供だ。魔力酔いしたばかりでなければ追い出してやるのに』
「もうっ! アーサーってば子供相手にそんな意地悪言わないの!」
アーサーを窘めると、少年は驚いたように私をアーサーを見比べた。
「あ、ごめんね。従魔契約してるから、アーサーの言ってる事がわかるんだ。それで、名前を教えてくれる?」
「サミュエル……」
「サミュエルか、目が覚めていきなり知らない所にいたから不安だろうけど、モヨリ―に知らせてもらうから安心してね」
安心させるために言ったが、どうもためらっているように見える。
もしかして一緒に来ている大人達から意地悪されているんだろうか。
「ねぇサミュエル、間違ってたらごめんね。もしかして一緒にモヨリ―に来た商家の人達と一緒にいたくないの?」
そうたずねると、サミュエルの目が動揺して泳いだ。
もしかして、取り引き相手の子供を押し付けられて迷惑だったからわざと森ではぐれるようにしたとか!?
だとしたら、せめてモヨリ―を出発するまでここでお世話しちゃダメだろうか。
だけど私自身が居候の身だから、私からサミュエルを置いて欲しいとは言いづらい。
サミュエルの頭を撫でながら、ユーゴを救いを求めるように見た。
『この子供は気に食わんが、主が望んでいるのならそのようにせよ」
「はぁ……、マティス兄さんに聞いておく」
ユーゴはそう言うと、水の入った桶を持って部屋を出て行った。
「ユーゴありがとう! アーサーも!」
嬉しくてサミュエルをギュッと抱き締めた。
本人はわけがわからず戸惑っているようだけど。
「いったい何が……?」
「えっとね、サミュエルが一緒に来た人達といるの嫌そうだったから、ここの家主のマティスにサミュエルがモヨリ―を出発するまでここに置いてもらえないかって聞いてくれるの。あ、もちろんマティスがよければの話だよ!? 一緒に来たっていう商人にも許可を取らないと誘拐になっちゃうしね」
『まったく……、我が主はお人好しが過ぎる。そういうところも好ましいが、周りがその分心配せねばならぬのだぞ。まぁ、そやつからは嫌な感情は出ておらぬゆえ問題なかろうが……』
なんだか日増しにアーサーが説教臭くなってきたのは気のせいだろうか。
せっかく可愛い見た目なんだから、そんなに色々考え込まずに気楽に過ごせばいいのに。
「サキ……、その、ありがとう」
「どういたしまして! まぁまだ置いてもらえるとは決まってないんだけどね。サミュエルは町に戻るより、ここにいたい?」
「うん……、サキと一緒にいたい」
そう言って私の服の裾をそっと握った。
か、可愛いっ!!
姉と二人姉妹だったから、下に弟妹がいる友達がいつもうらやましかった。
弟というには年が離れすぎているように思うけど、可愛いからよし!
「一緒に来た人が許可してくれるといいねぇ。お返事もらうか、お迎えがくるまでもうひと眠りしておくといいよ。私は食事の準備してくるから休んでてね」
サミュエルを寝かしつけて部屋を出ると、ちょうどリアムがモヨリ―へ向かった後だったらしい。
リアムが走れば、馬車と同じくらいの速さだ。
それにしても三十分後に、ミュエルの保護者である商人と一緒に戻って来るのは……早過ぎない?




