19.魔力循環
『例えるなら魔力の多い子供は、水が満ちた入れ物に針ほどの穴しか開いてないようなものだ。出口が小さ過ぎて中身が出ないゆえ、主が空気穴を作って水を押し出してやるイメージをするといい。素肌でなくともよいから、触れている面積が大きい方が効率よく循環させられるぞ』
アーサーの指示に従い、少年を寝かせると身体ピッタリくっつくように抱き締める。
くっついて少年の中の魔力を押し出そうとすると、まるで破裂寸前の風船のように魔力が溜まっているのがわかった。
「あわわわわ、早く魔力出してあげないと大変! えーと、えーと、先に引っ張り出すイメージの方がよさそうだね。うわぁ……アーサーほどじゃないけど、この子濃密な魔力を持ってるなぁ」
この世界に来てひと月経ったくらいから少しずつ魔力の扱い方をアーサーに教わってきたので、それなりに魔法や魔力に関しては詳しくなってきたと思う。
『王族や貴族であればそういう事も珍しくはないぞ。案外我が目的でやってきた権力者の使いとしてやってきたのやも……』
「まさかぁ! こんな子供にそんな役目させないでしょ。今も魔力酔いでこんなに苦しんでいるのに、可哀想……。保護者は一体どこにいるんだろうね」
はぁはぁと苦しそうにしていた少年は、私が魔力を動かしてあげると段々呼吸が整ってきた。
それにしてもかなり綺麗な顔をしている。
一人でいたら、悪い大人に攫われちゃうんじゃないだろうか。
「サキ、水とタオル、持って来た」
魔力循環させていると、ユーゴが氷水の入った桶とタオルを持ってきてくれた。
「ありがとう、ユーゴ。身体が熱いから冷やしてあげたかったんだ。もう少ししたら魔力は落ち着くと思うんだけど……、そのタオルおでこに乗せてくれる?」
「ん」
「あ、いや、私じゃなくて……」
なぜかユーゴは私の額に濡れタオルを乗せた。
だけどすごく気持ちいい、私の分も頼もうかな。
『気付いてないようだが、今は主の方が熱いはずだぞ。それだけ濃密な魔力を大量に受け入れているのだからな』
「へ!? あ、いやまぁ、確かに身体が熱いなぁとは思ったけど、子供の体温って高いから抱き締めていたらこんなもんかなぁって……」
すぐに温くなったタオルを、ユーゴは再び氷水に浸して絞り、今度は私の顔や首元を拭いてくれた。
熱いとは思っていたけど、思っていた以上に火照っていたらしく、冷たいタオルの心地よさに思わず目を閉じる。
『うむ、ユーゴ、もそっと主を冷やしてやるがいい。かなり心地よいらしい』
「ん、わかった」
アーサーが口元をペロリペロリと舐めているところを見ると、今の私が感じた心地いいという感情を食べているらしい。
まるでリアムと毛づくろいしている時みたいなユーゴの手つきが、くすぐったくて笑ってしまう。
「ふふっ、くすぐったい。だけどかなり楽になったよ、ありがとうユーゴ」
「ん」
「ん……ぅうん……、ここは……」
その時、抱き締めていた少年が身じろぎしたと思ったら目を覚ました。




