109.報告書提出(二回目) 最終話
「これが今回の……そして最後の報告書だ。結果的に八階層までしかなかったが、ダンジョンコアを持つ魔物には近づかない方がいい。Sランクパーティでも厳しいと思う」
「おぅ、ご苦労さん。無事に戻ってなによりだぜ、さっそく見せてもらおうか」
数日間の調査が終了し、マティスが調査報告書をジョセフに渡した。
もうこのギルド長室に来るのは何回目だろうか、すっかり常連だ。
ジョセフは受け取った報告書と、昔のダンジョンの地図を見比べながらパラパラとめくっていく。
時々唸り、時には頷き、最後の一枚に目を通した瞬間動きが止まった。
「はぁぁぁ!? ダンジョンコアがキマイラにあるだと!? キマイラがあのダンジョンにいるってぇのか!?」
キマイラとは頭がライオン、胴体がヤギで尻尾が蛇という合成生物の元ネタとも言われる魔物だ。
そしてそのキマイラがいるのはダンジョンのみ、しかも高難易度に指定されるダンジョンにしかいないとマティスが教えてくれた。
「遠目からだったがちゃんと確認したから間違いない」
そうなのだ、結局アーサーが駄々をこねて遠くから確認するだけという約束をして、ラスボスである魔物を見に八階層まで行ってきた。
隠蔽魔法をかけているのというのに、目視できる距離に近付いただけで、もの凄く警戒されて慌てて帰って来たけど。
しかし、キマイラの周辺以外は全て地図に描いたし、結果としては上々のはず。
ひと通り報告書に目を通したジョセフは、大きなため息を吐いてから目頭を指先でグリグリと揉んだ。
「調査報告書に関しちゃぁ完璧だ。だがなかなかの難易度だな。こりゃあお前さん達以外だといくつかのSランクパーティが手を組まないと攻略できそうにないな。大氾濫の危険はあるが、そのかわりこの町が長く豊かになるって事が保証されたってもんだ」
この時のジョセフの言葉通り、シパンの町は冒険者を中心に人口が増え、マジョイル国全体が潤うほどに恩恵をもたらした。
その陰には大けがをしても、死んでさえいなければ治してくれる聖女の存在があった。
つまりは私である。
そして数年が経ち、双子もマティスと変わらないくらい大きくなって気付いた事がある。
私……、歳取ってなくない?
その事をアーサーに言うと、驚くべき答えが返ってきた。
『前例がないから何も記録が残ってないのだったな。契約した事により、我の寿命に引っ張られているのだ。我がブラックフェンリルにならぬ限り、主も千年近く生きるはずだ。だが主が主である限り、そんな事にはなるまい』
「え……? えぇぇぇぇえぇ!?」
『最近は使える神力も増えてきたのだから、万が一主がかでんと呼んでいる物が壊れても直せるであろう? この森の家がある限り、住む場所には困らぬし、問題なかろう』
「う……色々問題ある気がするけど、この世界のためにはいいのかな……?」
私が死んでから九百年の間に、アーサーがブラックフェンリルになってしまう危険性が無いとは言えないし。
だけど恋愛に興味が無いとはいえ、この先も恋人無しモフモフありの生活……モフモフありなら……まぁ……。
時は流れ、サキとアーサーがこの町に来たばかりの頃を知る者は、エルフやドワーフという長命種だけになった。
彼らは言う、今は都市と呼ばれているが、昔はその辺の町と変わらなかったと。
彼らは言う、大氾濫すら聖女と成体となったフェンリルの前ではただの余興だったと。
彼らは言う、獣人にとっての聖地と言われ出したのは、聖女に撫でられた獣人の子供は加護を得られると広まったせいだと。
彼らは口を噤む、その噂は思う存分可愛いモフモフを堪能したい聖女が自ら作り出したという事実を。
最後までお読みいただきありがとうございました!
この世界はサキとアーサーのおかげで存続した事でしょう、我ながら何か色々足りなかった気がする……。
今度は初ラブコメにも挑戦中なので、しばし文章力の修行をします!
同時進行で悪役騎士団長に転生ものも執筆中。




