108.ダンジョン調査【二回目】
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
『落ち着け主、あんな蜘蛛ごとき大した敵ではないぞ』
「だって、気持ち悪いんだもの! 小さくても気持ち悪いのに、なんであんなに大きいわけ!?」
私が騒いでいるのは、七階層に出た死の蜘蛛のせいだ。
出会ったら死ぬとか言われているくせに、普通に森の奥でも見かけるらしい。
だけど死の蜘蛛の素材から作られる糸は最高級品として人気素材なんだとか。
しかも森で討伐した時と違って、死んでから三十分もすれば死体は魔素へと戻ってしまうので、その場で素材を解体しないといけないのだ。
申し訳ないがその辺りはマティスに丸投げさせてもらっている。
その代わり、段々容量が大きくなっている空間収納に素材は預かっている。
これは適材適所という素晴らしい判断だと思う。
「終わったぞ。それじゃあ素材を頼む」
「わかった」
私が出来るだけ死の蜘蛛を視界に入れないように、岩陰に隠れている間にマティスが討伐どころか解体まで完了していた。
差し出された素材を直接触れずに空間収納へと入れる。
「それにしても、もったいないな。森でなら小分けにして全ての素材を持って帰れるのに」
死の蜘蛛は全て持って帰っても色々と使える部分があるらしいが、私の空間収納の容量では車より大きい一体丸ごと入れてしまえば他の物が入らなくなってしまう。
「持って帰るなら、できるだけ虫とか蜘蛛以外の魔物がいいなぁ。見えないとはいえ、空間収納に死の蜘蛛の一部が入ってると思うとゾワゾワしちゃうから。だから考えないようにしてる」
真顔でそう言う私に、マティスは苦笑いを浮かべた。
アーサーは理解できないと言わんばかりに首をかしげたので、可愛くてちょっとだけモフらせてもらう。
『主、そろそろ先に進まねば予定通りにギルドに戻れんぞ。予測では次で最後の階層なのだろう? 急げばこのダンジョン全て回れるのではないか!?』
嬉しそうに尻尾を振っているが、すでに依頼された最低限の五階層どころか七階層のほとんどを調査し終わっているのだから、いつでも帰れるのである。
それを言ってしまったら、今は元気に振られている尻尾が元気なく垂れ下がってしまうかと思うと言えない。
「だけどさ、ダンジョンって最後のボスみたいな魔物がいるんじゃないの? それともコアがあるだけ?」
『ダンジョンというものは基本的にそのダンジョンで最も強い魔物にダンジョンコアが宿るのだ。そのダンジョンコアを宿した魔物を倒すと、ダンジョンコアは魔石になる。その魔石をダンジョンの外に持ち出すと魔素が不足した状態になり、いわゆるダンジョンが枯渇した状態になるのだ』
「へぇ~……。あれ? だったら私達で全部回っちゃったらマズいんじゃない? アーサーってばダンジョンコアを宿した魔物と戦う気満々だったよね!?」
私がそう言うと、アーサーはフイと目を逸らした。
「アーサー?」
『だっ、大丈夫だ! 七階層に来てから感じている気配からして、きっと今の我ではまだいい勝負ていどになるはず! 見つけたとしても軽く戯れて戻れば問題無い!』
「アーサー、いい勝負になる力量の差であれば、やるかやられるかになってしまうと思うのだが? 戯れられるのははっきりとした力量の差があってこそだぞ? アーサーがそれを知らないとは思えないが……」
マティスの指摘に、アーサーの尻尾が静かに垂れ下がった。




