102.ジョセフの装備
本日のお昼は角兎を狩り終わったマティス達と合流してから食事をし、その後は地形把握を兼ねて森を散策している。
「ねぇ、あっちの方にすごく魔素が多いって感じるんだけど、気のせい?」
『気のせいではないぞ。恐らく枯れたダンジョンというのもあちらにあるのだろう。主は再び魔素が溜まって復活する前兆を感じ取っているだけだ。サショイノ王国でサミュエルと一緒にモヨリ―に来ていた魔導師クラスであれば感じ取れるのではないか?』
「そうなんだ……」
久しぶりに聞く名前に、少しだけ胸がチクリと痛んだ。
嫌いになって離れたわけじゃないけど、自分で決めた事だから後悔はない。
「サキはすっかり魔導師になったんだな。モヨリ―で冒険者登録した時は魔力が赤ん坊以下だと驚かれていたのに、ククッ」
当時を思い出しているのか、マティスが肩を揺らして笑った。
あの時はギルド内がざわついたくらいだったもんね、私もショックだったよ。
「聖女なのに魔力がなかったのか?」
シリルが不思議そうに首を傾げる。
そういえばシリルはサショイノ王国での事はほとんど知らないんだっけ。
この世界に来てからの話をしながら移動した。
「へぇ、異世界ってどんな所なんだ?」
「う~ん……、向こうの話はまだ少し辛いから、懐かしく思えるくらいになってからみんなにも話そうかな。色々と未練があるからね……」
「わ、悪い……」
「ううん、シリルも前に話しづらい過去を話してくれたもんね。ある意味魔法よりすごいのがたくさんあるから、聞くのを楽しみにしててね!」
少しだけ泣きそうになったから、わざと明るい声を出して自分を誤魔化す。
「ああ、いつになってもいいさ、ちゃんと待つから」
予想外の優しい声に、余計に泣きそうになって見られないようにシリルの頭が下がるくらいワシワシと乱暴に撫でた。
「シリルはいい子だね」
「うわっ。やめろ、なんだいい子って、もうガキじゃねぇよ!」
「ふふふ、私から見たらまだ子供ですぅ~」
不貞腐れたような声に思わず笑う。
狼獣人兄弟は私が泣きそうなのを察しているのか、先を歩いて振り向かないようにしてくれていた。
さりげない心遣いに心が温かくなる。
そんなほっこりタイムも、シパンの冒険者ギルドに到着する頃にはすっかり消沈していた。
入る前から感じるのだ、ジョセフの圧を。
予想通り、建物に入った途端に応接室へと連行された。
今回双子とシリルが依頼完了の手続きをしてくれるというので、私とアーサーとマティスだけだ。
「ハァハァ、見つかったか!? ハァハァ、ワ、ワシの神話級装備……! ハァハァ」
興奮を隠す事もなく、テーブル越しに身を乗り出してズズイと顔を近付けるジョセフ。
あまりに近くて手のひらで押し戻す。
「渡す前にちゃんと約束して! 絶対に出所を誰にも話さない事、むしろバレそうになったら誤魔化すのに協力してね。自慢するのも信用できる口の堅い人だけにしてほしいの」
「自慢……しちゃあ」「守ってくれたらマティス達より高品質な物を譲ってもいいんだけ」「わかった!」
渋々という態度から見事な手のひら返しで素直に頷いた。
そんなわけで、空間収納から高品質の袋に入っていた胴体を守る防具の上下セットをテーブルの上に出す。
「ふおぉぉぉ!」
「本当に変な噂を立てられずにこれを持っていられたら、セットになってる腕と脛の防具も渡すからね。…………ジョセフ?」
『こやつ、嬉し過ぎて気絶しておるぞ』
静かになったと思ったら、ジョセフは笑顔で白目をむいていた。




