マルガリータに捧ぐ
今では飲みに行く機会はめっきり減りましたが、お酒は弱くはないほうでした。
若いときのお酒にまつわる武勇伝をやたら話したがる父親の、その遺伝子を継いでいる冬野。お酒にかんしては弱くはないだろうとは思っていました。
かなり飲んでも記憶を失くしたことはありませんし、千鳥足なんてこともない。ちゃんぽんしても二日酔いにもなりません。それが密かな自慢。
居酒屋さんの雰囲気が好きなので、飲むなら外で。家では飲みたいお酒があるときにしか飲まないのですが、飲むとしても白ワインと梅酒……が多いかな。先日までは相互ユーザーさまに教えていただいた、ライチの香りの焼酎もジュースと割ったりして飲んでいました。美味!
とはいっても最近はめっきり弱くなってしまいました。夏が終わると発売される、お酒の神様の名前を冠した、洋酒入りのチョコレートを3粒食べただけで酔っ払らったときには自分でもびっくり。
そんな隠れザルでしたが、過去に二回ほどやらかしたことがあります。
一度目は京都へ旅行に行ったとき。先斗町で日本酒をかなり嗜んでホテルへ帰ってきました。そのままラウンジへGO! カクテルで乾杯! この時点でも記憶はしっかりとあります。じゃあ、そろそろ部屋へ帰りましょうと立ち上がったときもまだ大丈夫。
部屋へ戻ってきて天井を見上げると……あれ? グルグルと廻っているのです。本当にグルグル。ぱちくりと瞬きをしてみても冗談ではなくグルグルと回ってる。あれれ~? と思ったら……気がついたら朝でした。笑
洋服のまま、ベッドにうつ伏せに倒れ込むようにして眠っていたみたいです……。天井が回るっていうけど、本当に回るのですね。
そして二度目。
中学校の同窓会があったときのことです。仲の良かった友だちも日本酒が大好き。二人で調子に乗って、お猪口に冷酒をさしつさされつ。かなり調子にのり過ぎた自覚はあります。
二次会もお開きになった後。立っていられないほどに気分が悪くなってしまい、自力では帰宅できない……。家人に電話をして迎えにきてもらう羽目になりました。「酒くさっ!」を連呼されながらの強制送還です。
その友だちはまだけろっとしていて。ああ、負けた……。それでも記憶はしっかりとあるのですよね。
そして、いよいよ本題。
『マルガリータ』って、ご存じですか。
トマトソースとモッツァレラチーズのピザ……ではありませんよ。あれはマルゲリータ。
一字違いで大違いなのですが、マルガリータはテキーラベースのショートカクテルです。
名前は可愛いらしいですよね。女性の名前です。でもね、テキーラベースなのですよ。味も度数もちっとも可愛くはありません。うっかり騙されちゃうはず……です。
『マルガリータ』の想い出は、学生時代のゼミの親睦会にまで遡ります。
季節は4月。同じゼミになったとはいえ、顔見知り程度は数人いますが、まだお互いにそこまではよく知らない面々です。食事をしてお酒でも飲んで、教授と一緒に親睦を深めましょう! という飲み会がありました。今はそのお店はなくなってしまいましたが、ドイツ料理やドイツビール、カクテルを提供してくれるお店でした。雰囲気もよくて美味しかったなぁ。閉店してしまったことが残念です。
さて、そこで「とりあえずビール」が苦手な冬野は、メニューに可愛いらしいカクテルを見つけて頼みました。『ストロベリーマルガリータ』です。名前も素敵なピンク色のショートカクテル。ベースはテキーラ。
はい。まだ若かりし乙女な冬野。お酒については自分を過信していました。だってあの父親の遺伝子を受け継いでいますから。
そして知らなかったのですよ。飲んだこともないテキーラというお酒のことを。……無知って怖いですよね。
教授の「かんぱーい」との音頭でコクリと一口。
……っ!? なんじゃこりゃ!?
飲みこめない……。喉を通っていかない……。ムリ。飲めない。どうしよう。
とにかく甘くもなければ……っていうか……辛い? 美味しくもない(冬野は甘党ですので、あくまで個人の好みの感想です)。そして強い!
その一口だけは目を白黒させながら、それでもなんとか飲み込みました。
だけど次の飲み物を注文するときも、カクテルの中身はそのまま。一向に減りません。飲めないんだもん。隣の席に座ったコに「飲めないかも」なんて話していたら、教授がそれを聞きつけて「飲めないの?」と。「はい」と素直に頷くと、「じゃあ、貸して」と。なぜだ? と思いつつ、カクテルグラスを渡しました。すると、くいっと一口で残りを飲み干してから、冬野をちらりと見て「お子ちゃまね」と一言。
教授は女性でした。身長は冬野と同じか少し低いくらい。とてもスレンダーな体型で、いつでもきちんとした黒系のジャケットにスカーフ。タイトなミニスカートに黒のストッキングとピンヒールという出で立ち。口紅は赤。黒髪は結んでいたり、おろしていたり。華やかなのだか地味なのだかちょっと分からない、ミステリアスで不思議な雰囲気がありました。
そんな教授の一言。
もうね、衝・撃・的でした! いや、お子ちゃまなんです。二十歳は過ぎていたけど本当に。それはそうなので、そこに何も言うことはないのですが、なんというか……大人の女性の艶っぽさと貫録を見たというか……。いや、かっこよかった!
当時の教授の年齢になったとしても……。うーん、あの貫録はたぶん出せないかなぁ……。
でもね。密かな野望として、いつかは真似して言ってみたいのですよ。ふんと微笑って「お子ちゃまね」って(⩌ˬ⩌)




