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658話 『心の力の源』

「とうとう本気ってことだな」


 リーナは危険なオーラを全開にするハヌマーンを見て警戒態勢を強める。


「今更身構えたって、俺の速度は追えやしねぇよ!」


 ハヌマーンはボソッと呟き、バチッと音を鳴らせて姿を消す。いや、バチッと音が鳴った時にはすでにリーナの背後に立っていた。


「そ、そんな!? あんなノーモーションで雷速移動ができるなんて……」


 ハヌマーンはリーナの驚く暇すら与えずに、長い爪で彼女を斬りつける。


「グハッ!」


 幸いリーナは‶鋼筋武装〟を背面にまとっていたため、傷をつけられることはなかったが、爪撃の勢いに押されて床に叩きつけられる。


「オラッ! 寝ている暇はねぇぞ!」


 ハヌマーンは倒れるリーナに間髪入れずワインレッドの色をした‶魔獣砲〟を容赦なく放つ。


 ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼


 しかしハヌマーンが赤い閃光を放つ直前に先ほどと同じくバチッという火花の散るような音が鳴る。


「チッ! よけられたか……だがそいつで移動できるのはあと何回なんだろうな?」


 ハヌマーンは咄嗟に雷速で緊急回避したリーナを見つけて十数回目の挑発を行い、続けざまに‶魔獣砲〟を撃ち続ける。


 リーナは魔力を温存させるためにあえて‶超速移動〟を使用し、最小限の動きでハヌマーンの閃光を躱す。


(移動魔法は魔力の消費が著しい……だからこの超速移動だって何回も使えるわけじゃない。それに対して奴はいくら雷速移動しても平然としている。どうする?)


 魔獣と人間とでは魔力量が違い過ぎる。人間の魔力量をコップ一杯の水で例えるなら魔獣の魔力量は25メートルプールほどある。それほど魔力量に違いがあるため、人間では消費魔力の高い移動魔法や高火力の魔力砲だって容易く連発することができる。


 そんな魔獣をサシで倒すにはこの魔力量の差をどうにかしなければならない。


「どうした? ついに万策尽きたか? やっぱ人間なんて所詮張り合いの無い劣等種か?」


 ハヌマーンは反撃してこないリーナに呆れた表情を浮かべ、‶魔獣砲〟を気が済むまで乱射する。


 リーナはその攻撃を躱しながら考え事をする。


「そう言えば昔、颯太が言ってたよな……」


 リーナは目をつぶると彼との会話が鮮明に映し出される。





『なぁリーナ、神力って力ってさ……すげぇ面白れぇと思わねぇか?』


『そんなに面白いか? 魔力と変わらくないか?』


『あ~そうか、お前は使えるようになったばかりだから実感がないのか? 神力ってさ、どんなに非力な人間でも持ってさえいればどんな強敵にだって打ち勝つことができるじゃねぇか? それに窮地に立つ回数が多ければ多いほど、その強さがどんどん増していくんだよ! なんかさ、ヒーロー見てぇな力だよなぁ!』


『ヒーローみたいな……力』


『そうそう! 魔力は時間が経たないと回復できないけど、神力は何か気持ちの変化や迷いがなくなった時、ドカァァーーーンと回復して何ならもっと強くなったりするんだぜ!』


『ごめん颯太、ちょっと何言ってるのか分からない……』




(……ヒーローみたいな力……か……)


 リーナは何かが吹っ切れたような顔を浮かべ、握り拳を作る。


「今ならあいつの言ってたこと、分かるかもしれない」


 リーナは前を向き、レイピアを構える。しかしそんな彼女の眼前に赤く眩しい光が押し寄せる。


 ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼


「よっしゃ直撃した! ざまあみやがれ!」


 ハヌマーンは高らかに笑いながら‶魔獣砲〟に直撃したリーナに駆け寄る。


「な……なんじゃこりゃ……?」


 ハヌマーンは自分の目の前に天井に届くくらいの高さの雷神が見下ろしていることに驚愕する。


 そして玉座の部屋のフィールド全体に雷が駆け巡り、薄暗い部屋が嘘のように輝きだす。


「十万年前、人間と魔獣の戦いで勝てるはずのない人間がどうして魔獣に勝てたのか……それは人間には心があるからだ!」


「心……だと? 馬鹿馬鹿しい! そんなのが何の役に立つんだ?」


「心の力の源、それこそが神力! 非力な人間が持つ心の強さ、それが私達の強さの証明だ!」


 リーナの心のうちから神力が溢れ出し、彼女の髪は背中が隠れるほど伸び、ドレスの丈も短くなり動きやすくなる。


「勝負だハヌマーン! ここでお前を倒し、颯太を必ず救い出す!」


 バチバチと雷をまとったサーベルを片手にリーナは飛び出し、雷の速度で突進する。

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