653話 『魔獣王の玉座』
ドォォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼
凄まじい衝撃と地鳴りによって崩壊し続けていく‶魔龍城〟をリーナたちは駆け抜ける。
そのとき崩壊していく瓦礫と共に‶魔獣軍〟の魔獣も一緒に落下してくるため、毎度彼女たちはそいつらに阻まれてしまう。
「邪魔なんだけど! 少しは空気読みなさいよ!」
「魔獣に空気読めとかいう方が無理あるよ!」
怒鳴り散らすリーナにトムは冷静に答えながら光弾を連射し、雑魚魔獣を蹴散らす。
「確かあの狼が言ってた‶邪神の秘薬〟ってのはジャグバドスの玉座にあるんだろ?」
敦はソースイウルフから手渡しされたメモ用紙を見ながらフリックに尋ねる。
「ああ、‶第三幹部〟の魔獣が言うから間違いないね」
‶邪神の秘薬〟とは悪魔界で流通していた邪神力を完全回復させる禁断の回復ポーションのことである。その回復ポーションは悪魔の滅亡と共に消えていったと思われていたのだが、‶闇ギルド〟がその復元に成功し、現在ジャグバドスの手元に渡ってきている。
「それじゃあ当初の予定通りに私、ロゼ、トムは‶邪神の秘薬〟を取りに、フリック先生と敦、ポトフは捕まった静香たちの捜索の2グループに分かれよう!」
仲間たちに作戦を伝えたリーナは先頭を走り、ロゼとトムと共に上の階段を駆けていく。しかし戦闘で走っていたリーナの後ろの階段が完全に崩落し、彼女の後を追っていたロゼとポトフが奈落の底へと落ちていく。そして下の階段を下りていたフリック達も2人と一緒に崩落した床穴に吸い込まれて行く。
「みんなぁぁぁぁぁーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼」
リーナの叫び声は奈落の底までは届かなかった。そして彼女の絶望に追い打ちをかけるように階段が少しずつ崩れ始め、リーナはやむを得ず駆け抜けるしかなかった。
「ハァ……ハァ……何とか最上階まで上がることはできたけど、ロゼたちは大丈夫なのか?」
リーナは玉座のある部屋の前まで全力疾走しており、かなり息を切らしていた。そして部屋の扉を見上げて驚愕する。
「なんて大きさなんだ!? こんなの力任せで空けられないぞ!」
リーナは頑張って扉をこじ開けようとするのだが、扉はびくともしない。
「だったら仕方ない。ブチ空けるしかないな!」
リーナは苦笑を浮かべながら左拳に‶超神武装〟をまとい、雷がバチバチと放つ。
「一点集中‼‼‼‼ ‶閃光拳〟‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
リーナの力強いパンチが、重くて硬い鉄の扉に風穴を空ける。
「いったぁい‼‼‼‼ なんて硬い扉なんだ! 危うく骨が折れるところだったぞ!」
リーナは左手を触り、文句を言いながら部屋の中へと入る。そして彼女が一番に目にした物は、黒い液体を詰めた巨大な瓶ボトルだった。
「間違いない! あれは間違いなく‶邪神の秘薬〟‼‼‼‼ あんなにあればむしろ余るくらいだ!」
「……よぉ」
リーナの目に瓶ボトルが止まり、彼女は思わず走り出そうとするのだが、聞き覚えのある声が聞こえ立ち止まる。
「また会ったな! マリアネスの王女さんよぉ。こんなところまで何しに来たんだ?」
巨大な玉座にサイズがあっていない猿の魔獣が足を組んで座っており、リーナを見下ろしながら喋り出す。
「お前は……ハヌマーン」
「一回あっただけでよく俺の名前を憶えていたなぁ……うれしいぜ。あ~でも要件は言わなくてもいいぜ! どうせこれが目当てなんだろ?」
ハヌマーンは長い爪でコツンとつつきながらリーナに聞く。
「何だよ! 来た理由が分かってるならさっさとよこしなさいよ!」
「そう言うわけにはいかねぇよなぁ?」
「なら今ここでその薬を割るつもりなのか?」
「確かにそいつが一番手っ取り早いんだが、なんたってこいつは‶魔獣王〟の大事な私物。‶第二幹部〟の俺が割るわけにはいかねぇよなぁ?」
ハヌマーンはそう説明しながら黒い瓶ボトルに電気の防御壁を張る。
「それにしてもまさかてめぇ一人でここまで来るとは思ってなかったぜ! 全員死んだのか?」
「まさか! それなら私だって思ったことがあるさ。何でお前一人でこのボトルを守ってるんだ? 大事な物だったら‶第一幹部〟とかに守らせろよ!」
リーナの質問がおかしかったのか、ハヌマーンは突然笑い出す。
「そうか知らねぇのか? 俺以外の幹部連中は全員、これから‶人間界〟へ進軍する」
「っ!?」
リーナはあまりの衝撃に思考が一瞬停止する。ハヌマーンはそのリーナの間抜けた顔にさらに爆笑する。
「いいなぁその顔! お前の生まれた世界はこれから残酷なまでに蹂躙される。1日もかからずにな!」
「……みんな」
リーナの頭の中には学友たち、父である国王、尊敬する姉2人の顔がよぎる。




