644話 『最凶の野望』
ジャグバドスは数日前の颯太とは別人ではないかと思わせるほどの邪神力を感じ取り、すぐに爪を離す。
「この感触……フッ、どうやらお前もこのステージまで上がって来たか!」
「お前が言うそのステージってのがよくわかんねぇけど、俺はお前をぶっ倒しに来たんだ! 舐めてもらっちゃあ困るってよ!」
颯太は2本の刀に‶神剣武装〟を施し、力強く素振りする。すると斬撃を振るったわけではないのだが、剣圧だけで硬い壁に大きな傷を刻む。
「さぁもっとだ、もっと俺に見せてみろ! お前の力を!」
ジャグバドスは背中の翼を広げ、勢いよく颯太に直行する。颯太もそれに対抗するように漆黒の翼を生成し、ジャグバドスと空中の戦いを挑む。
刀の刃と爪の刃がぶつかり合う度に波動が城を揺らし、翼を振るたびに城の中で突風が巻き起こる。
「こんな戦い、城の中だけじゃあ済まないぞ!」
敦は天井の崩落を見てすぐにその場を離れるように伝える。そこへ龍長老が彼らを全員背中に乗せて先ほど颯太が空けた壁穴を通り抜けて城から脱出する。
するとしばらくして城の屋根から漆黒の火柱が上る。
「何だあの炎は!?」
「‶魔龍咆哮〟だ」
驚くトムにソースイウルフは冷静に答える。
「あの炎をまともに受ければ‶王格の魔獣〟ですら焼き殺すことができる」
「……颯太」
ソースイウルフの言葉にリーナは不安な顔が抑えきれなくなる。しかしそのとき……
漆黒の業火の中から翼で身を守った颯太が煙を吐きながら姿を現す。意識もしっかりと保っていた。
「自分の城だろ!? 焼いてもいいのか?」
「お前との戦いにあの城は小さすぎる! 俺達の戦いのリングはこの世界くらいねぇといけねぇだろ!」
ジャグバドスはそう叫びながら紅の雷を体から無造作に無限に放ち続ける。その雷撃は弾幕のように颯太に襲い掛かるが、颯太は全て‶神剣武装〟した二刀で両断していく。
「そうだもっとだ! もっともっと俺を昂らせろ!」
ジャグバドスは10メートルある巨体をグルグルと回転させながら竜巻を引き起こす。そしてその巨大な竜巻は大蛇の如く黒雲の中をうねりながら空全体を覆う。やがて竜巻は黒雲を吸収し漆黒と化す。
「今度は一体何が起こるって言うの!?」
ロゼはジャグバドスの変貌に若干の恐怖心を覚える。
「この姿で戦うのは数万年ぶりになるか? マズイなうっかり世界をぶち壊さなければいいがな!」
地上を闇に変えるほどの巨大な龍となったジャグバドスは雷鳴のような唸り声を出しながらそう言う。
しかし颯太はその最後の一言を聞いてケモビト族の人々が頭によぎった。
(そうだ、この世界は憎き魔獣たちの住む世界でもあるが、善良な奴らだっているんだ)
颯太はそう考えると頭に血が昇り、2本の刀から激しく漆黒のオーラが放たれる。
「あまり適当なことを言うなよデカ物! 仮にもこの世界の王ならこの世界に住むすべての生物を大事にしろよ!」
颯太は声を荒げようとするのグッと堪え、漆黒のオーラを旋風へと変える。
そしてその刀を構えると、自分の体の何千倍もある巨大な龍に斬りかかる。
「この際だからはっきりと言ってやる。俺には王という地位には微塵も興味がない。俺はただ強かったから支配者になったにすぎん。強い敵と殺し合うこと、それが俺の真なる野望だ!」
ジャグバドスは体の一部を‶龍鱗武装〟で硬くし、颯太の斬撃を受け止める。しかし颯太の斬撃はその鱗を斬り裂き、ジャグバドスの生身の部分がかすかに垣間見える。
「そうだ。お前のような男を待っていた。何万年も前の快感を思い出すために……」
ジャグバドスは自分の硬い鱗に傷を入れた颯太を高く評価し、口を大きく広げる。そして颯太の身長よりもはるかに巨大な牙で噛み砕こうとする。しかし颯太は翼を広げ急旋回することでその攻撃を直前で回避することができた。
「巨大魔獣の倒し方はまず目を潰すことだ!」
颯太はそう断言すると、刀を交差させて赤い電流を刀にまとわせる。
「‶疾風迅雷・十字覇衝剣〟‼‼‼‼」
雷速で突撃する颯太。普通ならどんな魔獣でもかわすことができない。ましてや何万メートルも長さがあるジャグバドスの巨体では反応することすらできないはずだ。
しかし‶魔獣王〟はそんな常識では測ることのできない怪物。颯太の突撃速度よりも速いスピードで長い胴を動かし、巨大な龍鱗で颯太の体を挟む。
「クソッ! デカ物のくせに何で繊細な動きができんだよぉ!」
「フッ……最強だからに決まってんだろうがぁ!」
ジャグバドスはそう叫ぶと自身の体を大きくひねり、釣り上げた魚のようにじたばたする。
ズシィィィーーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼
そのじたばたをジャグバドスの規模で行えば山が容易く破壊されるのは当然だろう。
「‶龍舞鱗獄〟‼‼‼‼‼」
バキバキバキバキーーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼
数多の木々がなぎ倒され、そこに住む多くの魔獣が木端微塵に吹き飛ぶ。
その光景を目の当たりにした颯太の仲間たちは言葉が出なかった。そんな中、
「颯太ァァァーーーーーーーーーー‼‼‼‼‼‼」
リーナの叫び声が虚しく響き渡る。




