636話 『支配者たる所以』
「こいつが……‶魔獣王・ジャグバドス〟!?」
リーナは空から睨みつける巨龍の眼光に思わず身震いする。
「久しぶりだな‶龍斬り〟! あの時の傷はもう癒えたか?」
「おかげ様で治るどころかもっと悪化してるくらいだぜ! お前も割れた鱗はもう修復してんのか?」
颯太は嫌みったらしくそう言い返し中指を立てる。
「俺の鱗は硬い代わりに一度割れたら修復するのに何年もかかっちまうんだよ! とんでもねぇことをしてくれたもんだ!」
ジャグバドスは高笑いしながら割れた箇所を見せつける。ジャグバドスは現在巨龍の形態になっているため、剥がれた鱗がより大きく見えていた。
「ウオォォォォ‼‼‼‼ ‶魔獣王様〟だぁ~‼‼‼‼」
「俺達の勝利だぁ!」
‶魔獣王〟の帰還が‶魔獣軍〟全体の士気を高め、‶万物の世界樹〟の下では大騒ぎになっていた。
するとジャグバドスはその魔獣たちの方へ視線を向けると、グルルと唸り声を鳴らす。
「お前たちに聞く……この世界の王は誰だ?」
突然の質問に魔獣たちの騒ぎ声が一瞬で鳴り止む。すると一体の魔獣が……
「も……勿論‶魔獣王〟様に決まってるじゃないですか!?」
一体の魔獣の声と共に「そうだそうだ!」や「‶魔獣王〟様しか勝たない!」と再び魔獣たちが騒ぎ立て始める。
しかし当の‶魔獣王〟はそれほどうれしくなかったのか、表情筋をピクリとも動かさずただ「……そうか」と返すだけだった。そして……
バチュン‼‼‼‼‼‼‼‼
ジャグバドスが突然邪神力の波動を全体に放ち、部下の魔獣たちの多くがその波動で内臓が花火のようにはじけ飛ぶ。
「「「「っ!?」」」」
これには颯太たちも驚きが隠せないでいた。まさか味方の魔獣たちを一網打尽にするとは誰もが思わなかっただろう。
「俺を畏れる野心のねぇ部下なんか……いらん! おいガルーダ! この世界の王は誰か言ってみろ!」
ジャグバドスはフンと鼻息を荒くしながらそう言う。
「この世界の王ですか? そんなもの俺に決まってるでしょうが! 早々にあんたの時代も終わらせてやりますよ!」
「こいつ何を言って……?」
リーナはガルーダの発言に思わず驚きの声が漏れる。
「そう言うことだ! よく聞け人間ども! ここにいる俺の部下は同時に俺の敵でもあるんだ! だからこそ俺が王であり続けるために俺自身が最強でなくてはならないんだ!」
「無茶苦茶すぎるぜ!」
颯太はあまりにも意味不明な言葉に呆れていた。
「だからこそ楽しいじゃねぇか! 俺を殺せる奴と戦えるかもしれねぇからよぉ!」
ジャグバドスは大地を揺るがす低い声で笑いだす。
「心配せずともお前の命は俺がぶった斬ってやるよ! そのためにここまで戦い続けてきたんだ!」
「フッ! その言葉がただの威勢で終わらなければよいがな! だったらもう一度‶魔龍城〟へ来い! そこで決着をつけてやる!」
ジャグバドスはそう言うと、突然体を激しく光らせる。するとジャグバドスの体はみるみると小さくなっていき、10メートルサイズの人型の龍となった。
「おいバドス!」
「言いたいことは分かる御鬼……戦況はほぼ互角、だが俺が加わればこの戦いは間違いなく勝てる。だが雀臨を奪われた挙句、‶人間界〟に侵攻する戦力をここで減らすのは得策じゃねぇ! もうここで戦い続ける意味がねぇよ!」
ジャグバドスは御鬼にそう言うと‶龍の一族〟のトップである龍長老の方を向く。
「今回の戦いはお前達の勝ちだ。だがいずれ全世界が絶望の渦に呑み込まれるだろう。それまでの短い勝利の喜びを噛み締めとくんだな!」
最後にそう言い残し、ジャグバドスは空間ホールを作り出し、残った魔獣全員と共にその穴へと入って姿を消した。
「待てぇ‼‼‼‼」
颯太が力強く叫んで追いかけようとするが指一本分届かず、その手は空を切る。




