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634話 『再生の炎』

「ガハァ……」


 御鬼(ゲキ)は胸部を対角線上に傷つけられ吐血がしばらく止まらなかった。

 そんな隙だらけの御鬼に颯太は追撃を加えることはしなかった。


「へへ……体の震えが止まらねぇぜ」


 颯太の体から放たれていた邪神力のオーラは極端に小さくなり、いつの間にか‶魔導神装〟も解除されていた。


「御鬼が斬られたときにはさすがに驚いたが、さっきの力はおろか、‶魔導神装〟まで無くなっちまってんじゃねぇか? こいつは逆にチャンスなんじゃねぇか?」


 アシュラSコングは指をパキパキと鳴らしながらガルーダにそう言う。しかしガルーダは先に颯太の背後にある巨大な神力に反応し、アシュラSコングとは真逆の反応をしていた。


「状況をよく見てから喋るんだなバカゴリラ。‶龍斬り〟の後ろから新たな神力が溢れ出してやがるじゃないか!」


「オイオイ、そいつはまさか……」


 颯太の背後の巨大樹から吹き出された紅の炎にさすがのアシュラSコングも気づく。


 そして巨大樹を全てその炎で包み込み、巨大な火柱から神々しい火の鳥が現れる。


「これはなんと……酷い」


 火の鳥は辺り一帯の焼け野原を目の当たりにし憐みの目を向ける。


「チキショー! 雀臨(じゃくりん)の奴、あの封印棺から脱出しやがった!」


 アシュラSコングは厄介な神獣が姿を現したことにひどく嘆く。ガルーダも同様に苛立ちの表情を見せる。


「これは私を巡って争ったためにできた傷跡なのですね。となるとこれは私の責任。私が何とかしなければなりませんね」


 雀臨は申し訳なさそうに自身の翼で身を隠し、熱風を体の外で吹き回す。


「‶再生の爆炎リジェネレイト・フレア〟」


 ドォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼



 雀臨は勢いよく翼を広げると、自身の体から放たれる熱風が一斉に‶万物の世界樹(ユグドラシル)〟周辺の森林に広がる。


 すると熱風に含まれていた蛍のような火の玉が焼け焦げた木々に付着し激しく燃え始める。そして次第に炎は全体を燃やし始める。


「な、何をするんだ! 森が滅茶苦茶じゃないか!」


 火の海と化した森林を見てリーナは思わず‶南の守り神〟に怒鳴りつける。


「まぁまぁ見てなさい。若い芽よ」


 雀臨はそう言うと、今度は次第に炎が小さくなっていき、最後は完全に消火された。するとそこには先ほど焼け野原にされていた森林が戦いの前の美しい状態を取り戻していたのだ。


「これが‶南の守り神〟の力……」


 ロゼは降り注ぐ火の玉の美しさに目を奪われていた。そしてその火の玉が自分の怪我した部分に付着すると傷の部分が激しく燃え滾る。


「ちょっと!? 私の手が燃え始めたんだけど!」


 ロゼはパタパタと手を振るもその炎は消えることはない。その後先ほどの森林同様に火が徐々に小さくなっていき、彼女の手から完全に消え失せると、その手についていた傷は跡形もなく消滅していた。


「まさか人の体まで再生させるなんて!?」


 ロゼは驚きの再生力に腰が抜けそうになっていた。しかしその反応はロゼだけではなかったようだ。


 巨大樹の下からは驚きや喜びの声が飛び交う。魔獣たちに致命傷を負わされていた‶ケモビト族〟や、魔力切れで戦闘不能になっていた龍たちが雀臨の炎に包まれることによってみるみるうちに再生されていく。


 そして残った火の玉はゆっくりと族長の方へと集まっていき、彼の体をその炎で包み込む。


「まさか族長もこの炎で……」


 族長のそばにいたウサギ耳の少女は燃える族長を見てわずかながらの期待を胸に膨らませる。

 しかしその炎は族長の傷を治すことはなく、そのまま小さく消えていく。


「やっぱり死人には意味がないのですね……」


 ウサギ耳の少女は悔しさと悲しさの感情に押しつぶされ、大粒の涙を流し始める。が……


 ドクン……ドクン……


 わずかながらにかなり遅いテンポだが、かすかに心臓の音が聞こえ始める。そして族長の口がゆっくりと呼吸をする。


「ぞ……族長~!」


 そのかすかな心音がウサギ耳の少女の涙をうれし涙へと変えるのだった。

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