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630話 『厄災の捕食者』

 ――時は少し遡り数時間前


 まだ‶万物の世界樹(ユグドラシル)〟で‶魔獣軍〟との戦いが始まる前のことである。


 シルクスターという王格の魔獣(ロイヤルビースト)を叩き落した静香は、その一撃に全てを懸けていたからか、魔力を使い果たしてバタリと地面に座り込む。


「つ~か~れ~た~! こんな戦いもうしたくないよぉ~!」


「僕たち3人がかりでやっとですからね。こんなのがあと何体も‶魔獣軍〟にいると考えるとゾッとしますね」


 静香の嘆きにヘーボンも共感し苦笑する。


「でもまだあの魔獣、倒せてはいませんよね? 魔力が感じられるので……だから急いでここを出ましょう」


 ユマはフラフラの静香の肩を担ぎ上げてこの‶情報送受信室〟から脱出しようとする。しかし……


「お前らよぉ~……ここから簡単に出られると思うなよ?」


「「「ッ!?」」」


 ユマたちは誰もいないはずの後ろから突如邪悪な声が聞こえ、驚きのあまり声が出なかった。


「誰ですか!?」


 ヘーボンが真っ先に剣を構える。ヘーボンの背後には、5メートルほどの巨体を持つ豹のような魔獣と、その手前に猿と人間の合わせたような怪物がいた。しかしヘーボンは2体の魔獣から放たれる重圧感のある神力を感じ取り、ただの魔獣ではないことを悟る。


「オイオイ、いきなり剣を向けるとは失礼な奴だなぁ~。ちゃんと俺たちの自己紹介聞いてからにしろよ」


 猿の怪物は焦った顔を浮かべるヘーボンを煽りながら重い神力をさらに強く放つ。

「な……なんて強い神力なの~! こ、こんなの……」


「あの‶神獣〟以上かもしれない、とでも言うつもりか?」


 静香が言おうとしていたことを後ろの豹の魔獣が代弁し、静香はビクッと肩が上がる。


「こいつの名はハヌマーン、‶魔獣軍・牙爪部隊〟所属の‶第二幹部〟。お前たち程度の神力(ちから)じゃあこのプレッシャーに押しつぶされるだけだ」


 豹の魔獣が勝手に部下の紹介を始めたことにハヌマーンは驚いて思わず後ろを向く。


「ちょっと何で俺の話をしちゃってんの、レオパルド? あんたの方がよっぽど恐ろしいだろうが!」


「れ……レオパルドですって!?」


 ユマはハヌマーンの言葉に反応し、絶望を顔で表す。そして彼女は恐る恐る‶危険レベルチェッカー〟を取り出し、目の前にいる豹の魔獣を検索する。


 魔獣名:レオパルド

 説明 :‶王格の魔獣(ロイヤルビースト)

 ‶魔獣軍・牙爪部隊〟を指揮する‶第一幹部〟。長い年月獲物を狩り続けることによって爪や牙は研ぎ澄まされ、鋼を豆腐のように斬り裂くほどまでに鋭い。さらに千里を見渡すことができる眼を持つことから‶厄災の捕食者〟と呼ばれ恐れられている。反対に部下からは‶牙爪王(がそうおう)〟と呼ばれて慕われている。

 全長 :5~6メートル

 戦力 :580万

 危険度:38


「以前グランベルクさんに‶魔獣軍〟のことについて色々聞いたことがあったんです。その中でも一番恐ろしいと言ってたのはこのレオパルドだったんです。‶闇ギルド〟主催でいくつもの犯罪組織の代表者の集会があったらしく、その集会に‶十極天〟としてラディーゴに付き添っていた時に、‶魔獣軍〟の代表でレオパルドが来ていたそうです。その際にもう一人の‶十極天〟の龍魔人がレオパルドを挑発したところ……1撃で殺されたそうです。それもあの爪で龍鱗を容易く斬り裂いて……」


「あの‶十極天〟を一撃で!?」


 静香は友人の雨宮美那子と同格の‶十極天〟が瞬殺されたという話に驚愕する。


「その話は事実だぜ! そいつは第一極だったが実力は‶魔獣軍(うち)〟の‶第三幹部〟レベルにはあったはずだ。そんなやつでも‶牙爪部隊(うち)〟の大将には手も足も出なかったってわけだ。それにしてもグランベルクか……随分と懐かしくて、憎らしい名前を出しやがるなぁ!」


 ハヌマーンは突然キレ始め、ユマに蹴りかかる。しかしその攻撃を寸前でヘーボンが剣で受け止める。


「ほーう、てめぇ……俺の神力でビビらねぇとは大した度胸じゃねぇか? だったらその褒美にいいもの見せてやるよ!」


「やめろ」


 レオパルドの一声でハヌマーンが攻撃の手を止める。レオパルドは千里眼で‶魔龍城〟全体を見渡し、数多くの魔獣の死体を確認する。


「お前はその足で‶魔龍城〟の状況を見て回ってこい! こいつらの相手は俺がしてやる」


「……了解だぁ!」


 ハヌマーンは不気味に微笑みながら‶情報送受信室〟を飛び出す。しかしそのとき……


「みんな! 作戦は成功したか?」


「邪魔だ」


 ズドォン‼‼‼‼‼


 部屋に飛び込んできた零龍(リンロン)とハヌマーンが鉢合わせになり、ハヌマーンはすれ違いざまに鉤爪で彼の胴を貫く。そして力強く腕を振り、串刺しになった零龍を投げ飛ばして‶情報送受信室〟を後にする。


 静香たちはその光景を目の当たりにして言葉が出なかった。


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