615話 『空の覇者』
‶魔獣界〟上空では、1体の怪鳥が高ヘルツの音を鳴らしながら風を切っていくのだった。それはすなわち、人間の常識では計り知れない速度であるということだ。
「人間どもがァ……‶魔龍城〟の次は‶万物の世界樹〟か!? 生きて帰れると思うなよ!」
怪鳥はそう言うとさらに加速し、ミサイルの如く‶万物の世界樹〟へと近づくのだった。
「あの悍ましい魔力。間違いない、あれは‶天空王・ガルーダ〟‼‼‼‼」
ロゼは数日前の高波を思い出す。‶超国・南部〟の海岸に姿を現したガルーダは翼の一振りだけで暴風を生み出し、数十メートル級の高波を起こしたのである。その波に呑み込まれた人々は行くへ不明の者もいれば、助け出されても手遅れだった人だっている。たった一振りだけでここまで残酷な光景を作り出したガルーダは彼女にとって約細そのものである。
ビュン‼‼‼‼‼‼‼‼
一瞬、体が持っていかれるほどの強風が押し寄せた。その強風は一度見たロゼやリーナだけではなく、ケモビト族の人たちにも恐怖を植え付ける。
「随分と遅い帰還だったな? ガルーダ」
‶地獄王〟と呼ばれる御鬼が頭上を見上げて問いかける。ガルーダは御鬼の姿を確認すると、会長の姿から人型へと変える。
「仕方ないだろ? ‶人間界〟との行き来は魔力量が高い奴ほど時間がかかっちまうんだよ!」
「だが魔力量が随分と下がってるようだが? これも‶人間界〟へ行ったせいなのか?」
今度は‶刀剣王〟のアシュラSコングが聞いてきた。他の‶第一幹部〟は‶魔獣界〟を出たことがないために、帰還してきたガルーダに興味津々なのだ。しかしガルーダはアシュラSコングの質問にはあまり答えたくなかったからか顔をしかめる。
「いや、こいつは別件だ。それよりも儀式は進んでいるのか?」
「さっき行おうと思ったところだ。だがその前にこの人間どもの邪魔が入ってな」
「なるほど、それは由々しき事態のようだ。すぐに対処せねばな!」
ガルーダはそう言い、魔力を放出する。この魔獣の魔力に引き寄せられ、空には黒雲が渦巻く。
「あれは……雷雲!?」
ロゼは突如、空が暗くなったことに驚愕する。
人間は代々、天候を変える力を持つ存在のことを神としてあがめていた。そしてその力を持つ者を畏れ多く感じていた。
しかし魔獣の場合は話は別であり、畏れられるというより恐れられる存在であるのだ。
「‶魔空万雷〟‼‼‼‼‼」
バリバリバリバリーーーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼
激しく雷鳴が轟き、稲妻が大樹の根のように無数に広がる。落雷に撃たれた木々が各地で発火し、煙が立ち上る。そしてそのうちの一発がガルーダの足に直撃し、バチバチと電気がまとわれる。その電気はこの魔獣の魔力に反応し、さらに激しく散る。
「‶金雷の足武装〟‼‼‼‼‼」
ガルーダは電気をまとった足で宙を踏み込むと、落雷のような速度で一人のケモビト族に接近する。そして
バキィィィーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼
凄まじい蹴りでそのケモビト族の男性を吹き飛ばす。蹴り込まれた男性はあばらの骨がいくつも砕けるような音が聞こえ、いくつもの木々をなぎ倒しながらぶっ飛ばされて行く。
「よくもぉぉぉーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
怒りに身を任せ、大勢のケモビト族がガルーダに攻撃を仕掛ける。しかしガルーダは大きな翼を振り下ろし上空へと飛び上がる。
その風圧に呑み込まれたケモビト族はガルーダのいる空の世界へと連れていかれる。
飛行魔法を扱えない者にとって空の世界はただ無抵抗のまま地面に落下していくだけであるため、空の覇者であるガルーダにとって格好の餌食となる。
ガルーダは高速旋回を繰り返しながら、宙に舞い上がったケモビト族を一人ずつ丁寧に蹴り落としていく。
「あんな大きな体であの速度……どうしろって言うの?」
ロゼはガルーダの存在を見て完全に腰が抜けてた。今まで多くの魔獣や犯罪者と戦ってきて、多くの経験をしてきた彼女であったが、あの数日前の光景を目の当たりにして以降、この魔獣に対しての闘争心を完全に摘み取られてしまったのだ。
「おい、私の治療はもういい! 蹴り飛ばされた仲間の治療を頼む!」
ロゼの近くで仲間のケモビト族の回復魔法を受けていた族長はそう言って立ち上がる。そして草むらを突っ切りながらガルーダの前へと現れる。
「無茶ですにゃ! 族長!」
ミリファが引き止めようとするが族長は進み続ける。
「いつまでも休んでなんかいられない! この作戦を成功……いや、こいつらに一矢報いらなければ、生贄になっていった仲間たちに顔向けできない!」
「族長……」
ミリファは族長の強い意志に押され、これ以上引き止めることができなかった。
「生贄になった仲間たちねぇ……ああ、あいつらのことか?」
ガルーダは何かを思い出すと、不敵な笑みを浮かべる。
「あいつらの魔力……まあまあ美味しかったぜ! 人間ほどじゃなかったがな!」
ブチッ……‼‼‼‼‼‼‼
族長の中で何かが切れる音がした。そして彼の体内から沸々と魔力とともに怒りが沸き上がって来る。
「俺たちはお前たちのそのまあまあのために命を差し出してたのか? 憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いぃぃぃ‼‼‼‼」
グツグツと魔力が噴き上がり、族長の体をその魔力から生成される炎で包み込む。
「見せてやるよ! フリック先生のおかげで編み出した‶ケモビト族〟だけの強化魔法を!」
「オォォォォーーーー‼‼‼‼」
ガルーダは思わず興奮し見入ってしまう。
「‶野生神爪〟‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
激しい炎が彼の姿を変え、一人のケモビト族というよりは一体の犬型魔獣となったのだ。毛並みが炎と化し、彼の炎によって地面がゆっくりと熔かされていく。
そして彼の姿は一瞬にして無くなり、空の覇者であるガルーダの目の前に現れる。すると……
バキィィィーーーーー‼‼‼‼‼‼
強烈な後ろ足での蹴りがガルーダの顔面に直撃し、地面へと叩きつけられる。




