607話 『破壊の伝令信号』
彼の叫び声が聞こえるたびにユマに緊張と焦りが生じる。
「早く……早く邪神力を送らないと、ヘーボンさんが……」
バチン‼‼‼‼ バチン‼‼‼‼
痛々しい音が響くとともに、ヘーボンの傷口から血が飛び散り、ユマの見ている液晶画面にもかかる。
「おおっと! うっかりしてたわ! こいつを甚振る時間があれば、あの機械をいじっとる小娘ぶち殺らなあかんかったわ!」
シルクスターは冷静になって物事の順序を考え、はっと我に返る。そしてヘーボンを絹糸で拘束したまま放置し、ユマのところまで歩いていく。
「マズイ! 近づいてくる!」
ユマも敵の気配に気づき、防戦するか葛藤する。
「ユマさぁぁーーーん‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
ヘーボンの叫び声もこの残虐非道の魔獣には通じるはずもなく、絹糸で口を塞がれる。
「悪く思うなよ! お前らが悪いんや! ワイらの拠点に乗り込んで同志に手を上げ、挙句の果てにはこの部屋を占拠しようとしやがって! タダで済むわけないやろうが!」
「それならあなた方も同じですよね? 私たちの世界に何度も侵攻し、町や自然を破壊のかぎり尽くし、私たちの仲間がどれだけ傷ついたことや! あなた方がそのよう理由で攻撃をしようとするのであるのなら、私たちも全力で抵抗します!」
ユマは勇気を振り絞ってそう言い返すと、シルクスターの怒りのボルテージが上昇気流の如くブチ上がり、絹糸で生成したギロチンを何十本も彼女に向ける。ユマはその光景を目の当たりにすると、恐怖のあまり思わず体が震え上がる。
「なんや、一丁前に言い返しとるくせしてビビってやがるんかい? そんなヘナチョコがここにやってくるんじゃねぇよ!」
シルクスターはいつもの口調が一瞬なくなるほど熱くなり、ユマに襲いかかる。しかし……
「よく言ったユマっち! 後のことは私に任せんしゃい!」
突如‶情報送受信室〟に飛び込むように入ってきた静香が、背後からシルクスターを凄まじい重力剣で打ち付ける。
ズドォォォォォーーーーーーーーン‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎
メキメキと床下が崩壊し始め、重力で飛翔を潰されたシルクスターは絹糸を張り巡らせて落下を防ごうとするが、先ほどの衝撃で絹糸の拘束から解放されたフリックがそれを全て断ち切る。
「羽をもがれた蝶はただひたすら地獄へと堕ちる」
静香が最後にそう言い捨てると、シルクスターは断末魔の叫びを上げながら城の底へと消えていく。
「今です! ユマさん!」
ヘーボンは緩くなった絹糸を歯でかみちぎり、力の限り声を上げる。
「ハァァァーーーーー‼‼‼‼‼‼」
ユマも彼らの期待に応えようと自身の邪神力を絞り出す。
そしてゆっくりと上昇していたゲージが遂に最大値まで到達し、すべてのエネルギーが機械全体に伝わっていき、耳を抑えないと鼓膜を破壊されるほどの高音が響き渡る。
そしてその音波はやがて‶最果ての魔龍城〟の外まで放たれ、空間の壁を突き抜け、‶聖霊界〟へと広がって行く。
「グアァァァ‼‼‼‼‼‼」
多くの聖霊たちはこの音波を耳にしてもがき始めるが、その聖霊たちをまとめて相手にしていた‶牙爪部隊・第二幹部〟のハヌマーンだけは多少の耳障り程度でいた。
「相変わらずうっせぇ伝令信号だな。もっとまともに情報送ること出来んのか?」
ハヌマーンは長い耳をかっぽじりながら神力の放出をやめる。それは奥で戦っていた‶第一幹部〟のレオパルドも同じであった。
レオパルドは満身創痍の‶聖霊王・ウルティオス〟にとどめの一撃を喰らわせようと鋭い鉤爪を心臓に突き付けたが、耳障りの高音波に驚いて思わず寸止めする。
「バドスの奴、一体なぜこの信号を? もしや‶魔獣界〟に何かあったのか?」
‶魔獣軍〟のトップである‶ジャグバドス〟を呼び捨てするレオパルドは傷だらけの老人を投げ飛ばし、その場を立ち去ろうとする。
「とどめを刺さないのか?」
「命拾いしたなじーさん。この信号は帰還命令で、お前のような奴を始末することよりも優先される。だからせいぜい残り少ない人生でも楽しむんだな!」
レオパルドは不敵な笑みを浮かべながらそう言い、‶聖霊界〟を後にする。
「こんなレベルの魔獣があの世界にはまだあと3体もいるというのか!? 一体そいつらをまとめている‶魔獣王〟はどれほど恐ろしい魔獣のか!?」
ウルティオスは自分のつけられた傷を触りながら奴らと戦う人間たちのことを心配する。




