590話 『邪剣・ダーインスレイヴ』
――同時刻、2階の大広場では冒険者と魔獣の死闘が繰り広げられていた。恐らくこの冒険者たちは5階の‶幹部食堂〟から脱出した冒険者であり、零龍の犠牲もあってここまで進むことができたようだ。
しかしその行く先を‶刀剣部隊〟の魔獣たちが阻み、冒険者たちもここが正念場だと思い、魔獣の集団に立ち向かうのだった。
しばらくすると、冒険者たちの生き延びるという執念が魔獣たちの戦力を覆し、ついにその指揮官である‶幹部補佐〟の魔獣を戦闘不能までに追い込む。
「どうだ、見たか! 零龍さんがいなくたって俺たちはやれるんだ! おい、そこの‶幹部補佐〟! いや……ムシャケン! てめぇには散々いじめられてきたから名前覚えちまったぜ! だがそれも今日で終わりだ! 今まで受けてきた屈辱、晴らさせてもらうぜ!」
冒険者に剣を突き付けられている指揮官の魔獣と言うのは数日前、脱獄したばかりの颯太に殴り飛ばされた‶幹部補佐〟のムシャケンだった。
ムシャケンは颯太に殴られた傷も治らないまま颯太とスラッシュバイツを追い続けていたが、結局彼らを見つけることすらできず、現在に至る。
「クソッ! 奴隷の分際で俺たちに刃向かうとはな! てめぇらなんかすぐにでも処刑してやる!」
「鎖につながれているときならできただろうがな! だが生憎現在俺たちを縛るものなんかねぇ! おとなしく首を差し出すんだな!」
冒険者はそう言いムシャケンの首に剣を近づける。そして勢いよくその剣を振り上げ、ムシャケンの首に刃が襲い掛かろうとしたその時、
ガキィィィィーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
一本の黒剣が冒険者の斬撃を受け止めるのだった。しかしその剣には持ち手の者がいない。剣をぶん投げて斬撃を止めるというよりは、剣が自らの意思を持って冒険者の斬撃を受け止めたように見える。
「剣から魔力!? この剣、自我でも持ってやがるのか!?」
冒険者はピクリとも動かない自分の剣を見て驚愕する。そしてムシャケンを討ち取ろうとするもそれは叶わず、冒険者は黒剣に弾き飛ばされるのだった。
「随分と派手にやられましたね? ムシャケン」
「じゃ、‶邪剣・ダーインスレイヴ〟様!」
黒剣、ダーインスレイヴは柄頭についている単眼を開いてムシャケンを見つめる。
「ダーインスレイヴ、奴隷時代に聞いたことがあるなぁ。確か剣でありながら‶刀剣部隊〟に所属していてその地位はまさかの‶第三幹部〟……」
「それに奴の刀身はどの刃よりも硬く、斬れないものは存在しないともいわれてるぜ!」
驚く冒険者に便乗して別の冒険者も口を開く。
「お前たち気を抜くなよ! こいつの力は未知数だが危険なことだけは分かる!」
冒険者は仲間にそう言い聞かせると、自分の剣に魔力を注ぎ込み、臨戦態勢を整える。
「殺る気ですか? ですがその方がいい。なんせ生きの良い敵の血を浴びるのはたまらないですからね!」
ダーインスレイヴは剣なりの快感を覚えているようであり、中々に気持ち悪い発言をすると、自分の刀身から漆黒のオーラを放つ。
「まずはお手並み拝見と行きましょうか!? ‶邪黒刃〟‼‼‼‼」
ダーインスレイヴは漆黒のオーラをまとった刀身を回転させることによって斬撃を放つ。その斬撃がなんとなく颯太の斬撃に似ていたことは、ここにいる冒険者たちは誰も知らない。
「「「「グァァァーーーー‼‼‼‼」」」」
冒険者たちは何とかその斬撃を回避することができたのだが、斬撃から生じる風圧によって吹き飛ばされ、思わず声を上げる。
「おや、やはり私単体では大した威力は出ませんね。でしたら……」
ダーインスレイヴは眼球を倒れているムシャケンの方に向けると宙を浮きながらその魔獣の方へ向かう。
そして自分の柄をムシャケンに無理やり掴ませると、自身の刀身に封じられていた漆黒のオーラが大放出し、ムシャケンの体を覆い尽くす。
「な……なんだこの禍々しい力はぁーーー‼‼‼‼」
「契約成立、これからあなたの憎悪に力を注ぎ込みます」
ムシャケンを覆い尽くしていた漆黒のオーラは全てムシャケンの体に取り込まれて行き、漆黒の光を放つ。
ピカァァァーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼
漆黒の光が激しく全体を包み込み、一瞬だけ2階全体が夜の世界と化する。
そして漆黒の光が静まり周りの景色が一望できるようになった時、冒険者たちはムシャケンの変わり様に今日一番の驚きを見せる。
「い……一体どうなってんだその黒い姿は!?」
冒険者は体の7割ほどが黒く染まったムシャケンを見て戦慄する。そして黒く変色していない部位は黒い模様が浮かび上がっており、その姿はまるで‶魔獣化〟スオリーと戦った際に見せた雨宮颯太の‶漆黒の第二形態〟に近い姿となっていた。
「ウゥールゥーガァァァーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
ムシャケンの雄叫びを聞き、数人の冒険者が気を失う。ムシャケンを追い込んだ冒険者もそのプレッシャーに押しつぶされそうになる。
「クソッ! やるしかない! お前たち、行くぞぉ‼‼‼‼」
「「「「オォォォーーーー‼‼‼‼‼‼‼」」」」
ズババババババァァァァーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼
冒険者たちの応戦も虚しく、2階の大広間には何百輪ものの紅の花畑が咲き誇るのだった。
そしてその舞う花びらを漆黒のオーラが圧し潰す。




