573話 『焼豚との衝突』
「おい子豚野郎! 生贄が欲しいなら俺の肉なんてどうだ?」
敦は上半身の上着を脱ぎ、自慢の上腕二頭筋を見せつける。
「‶第三幹部〟の俺に盾突く家畜なんていらん!」
イバリコブタはむくりと立ち上がり、怒りの目で敦を睨みつける。
「へぇ~、お前が‶第三幹部〟だって!? ‶魔獣軍〟って大したことねぇんだなぁ~!」
敦は依然として挑発的な態度を緩めることはせず、ひたすらイバリコブタを煽り続けるのだった。
「ふざけんなよ! お前勘違いしてるようだから言っておくが、さっきの攻撃なんて全く効いちゃいねぇんだよ! 俺の皮膚は何十センチも分厚い層になってるんだ! 剣も槍も、ましてや炎のパンチなんかも、全部俺には全く効かねぇんだよ!」
イバリコブタは切れ気味にそう返すと、後ろ足で何回も地面をひっかく。そのときこの魔獣の全身は敦の炎とは別の炎で包まれる。
「‶焼豚撃進‼‼‼‼‼」
炎をまとったイバリコブタはそのまま集落に向かって猪突猛進してくる。
敦は咄嗟にかわしてしまうがその先が集落だったことに気付き、子どもの‶ケモビト族〟が襲われそうになるところを敦は‶炎天暴流脚〟でイバリコブタを蹴り飛ばす。しかしすでにいくつかの建物はこの豚にぶっ壊されてしまっていた。
「ふぅ~、あぶねぇあぶねぇ! 危うく集落が消し飛ばされっとこだったぜ!」
「分かったか? お前の蹴りも俺には全くの無意味、勝ち目なんてねぇんだよ! お前らには最初っから!」
「そう言う割には鼻から血が流れてっぞ!」
敦は自分の鼻を触って教えると、イバリコブタは自分の鼻の穴から血がポタポタと流れていることに気付いた。
「こんなもんただのかすり傷だ馬鹿野郎! ‶第三幹部〟の俺にとっちゃ大したことなんかねぇんだよ!」
「お前本当に‶第三幹部〟なのか? 前に襲撃してきたレオメタルって言う魔獣の方がよほどやばかったぜ!」
敦は疑いの目でイバリコブタを見つめると、イバリコブタは顔が真っ赤になるほど興奮し、急に鼻息も荒くなる。
「なめてんじゃねぇぞ小僧が! お前らがいつも持ち歩いているその‶危険レベルチェッカー〟とやらで俺の恐ろしさでも測ってみやがれ! きっと腰が抜けるほど恐怖るんだろうなぁ!」
敦はそう怒鳴られ、やれやれ仕方がなくデバイスを取り出し、目の前にいる豚の魔獣のデータを読み取る。
魔獣名:イバリコブタ
説明 :‶高格の魔獣〟
‶魔獣軍〟の‶地獄部隊〟に所属しており、‶第三幹部〟を務めている豚の魔獣の上位種。全身をまとう分厚い皮膚はあらゆる刃物や打撃を通さず、熱にも強い耐性を持つ。そして皮膚からにじみ出る大量の脂を高熱の体温で燃やして攻撃することを得意としている。
全長 :3~4メートル
戦力 :140万
危険度:31
「どうだ? 恐れ入ったか?」
イバリコブタは唖然とする敦たちの顔を見て威張り散らす。
しかし敦は恐らくイバリコブタが思っているのと違う意味で唖然としているようだ。
(あまりにもヘボすぎて言葉も出ねぇ……)
「ありゃだいぶ失望したようだねぇ~」
静香は敦の表情を見てなんとなく察した。リーナもそんな敦を見て苦笑いを浮かべる。
「俺たちのことを忘れてんじゃねぇよぉ!」
部下の子豚たちがリーナたちが油断している隙を見て攻撃を仕掛けるも、リーナの雷と静香の重力によって簡単に叩きのめされる。
「いかんいかん! こんな雑魚だろうが油断しちゃならねぇよな! 俺はもうこれ以上負けるわけにはいかねぇんだよ!」
敦は我に返ると気合いを入れなおすために自分の頬を叩く。そして敦は一瞬目をつぶり、過去に戦った強敵たちの姿を思い浮かべる。その中には颯太や一神、‶西の守り神〟の姿があった。
「誰が雑魚だゴラァ!」
イバリコブタは怒り狂い、再び突進を仕掛ける。しかし敦は超速移動を繰り返して連続で襲い掛かる突進を全てかわしながら豚との距離を取る。するとイバリコブタはこのまま突進を繰り返しても埒が明かないと思ったのか、再び鼻息を荒ぶらせる。
「知ってるか? ‶第三幹部〟ともなれば、こんな魔獣砲だって撃つことができんだぜ!」
イバリコブタは大きく息を吸い込むと、鼻からワインレッドの閃光を発射する。
「どうだこれが最強の魔獣砲、‶紅王の魔獣砲〟だぁー‼‼‼‼」
ワインレッドの閃光は森林の木々を消し飛ばしながらすさまじい速度で接近してくる。
「知ってる知ってる、よぉーく知ってる。だが俺が知る中で一番カスな‶魔獣砲〟だなそいつは!」
「なにぃ!?」
「‶魔導神装〟」
ズドォォォォォーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼
イバリコブタが放った‶魔獣砲〟は敦のいるところで止まり、大爆発を起こす。そしてそこには巨大なクレーターが出来上がるのだが、その中央には蒼炎をまとった敦の姿があった。
「う、嘘だろ!?」
「‶魔導神装〟するときの爆発的なエネルギーを利用して‶魔獣砲〟を相殺してしまったんだ! なんてデタラメなことをしてくれるんだ敦君は!」
フリックは全く思いもよらない戦法を使った敦に感心する。
「ふざけるなよ! 俺の渾身の‶魔獣砲〟を変身魔法の余波だけで防いでしまうなんてよ、認められるかぁ!」
イバリコブタは怒りのボルテージが最大まで振り上がり、全身を炎で包み込む。
「死ねぇ! ‶焼豚撃進〟‼‼‼‼」
イバリコブタは最大速度で敦に猛突進してくる。もはや大型重機が何百キロもスピードを出して突進してくるようなものだ。しかし敦はその突進を見ても一歩たりとも動くことはしなかった。
「怖気づいたか? だがもう遅い!」
「誰がビビるかよ、バァーカ!」
敦は全身を蒼炎化させてイバリコブタの突進は空を切るだけだった。
「あれは‶自然の衣〟!?」
フリックは敦が神力を完全にコントロールしていることを知らなかったため声を上げて驚愕する。
「お前を観察してて分かったことがある」
攻撃を受け流した敦は燃え盛るイバリコブタの背中にしがみ付いて話しかける。
「ハァ!? 何が!?」
「お前は自分の表面に強い熱耐性があって、それを利用して炎の突進を可能にしている。だがお前は体の表面だけに熱耐性があるだけで内部までちゃんと熱耐性はあんだろうなぁ?」
「ブヒヒッ! 俺の体内に熱耐性があろうがなかろうが、俺の分厚い表面を貫かない限り体内まで火が通るわけねぇだろうが!」
イバリコブタは高らかに笑いながら体を揺らして敦を振り払おうとする。しかし敦は剥がれることなく、ダニのようにイバリコブタに引っ付いていた。
「それがあるんだよなぁ、なんたって俺は炎のスペシャリストなんだからよぉ!」
敦は不敵な笑みを浮かべながら右手のひらから蒼炎を生成する。そしてその手のひらをイバリコブタの背中に付ける。
「こいつは爆発的な魔力量を一点に集中させる技で、大量の魔力量を消費するから戦いにおいてはせいぜい1回できるかどうかってところだった、今まではな。だが今は‶ケモビト族〟が作ってくれた魔獣料理のおかげで魔力量が何倍にも拡張されたから好きなだけ使うことができる! あいつのようにな!」
敦は再び颯太の顔を思い浮かべ、大量の魔力を手のひらに送り込む。
「‶波動蒼炎〟‼‼‼‼‼‼」
ドムゥゥッ‼‼‼‼‼‼‼‼
鈍い音が響き渡り、イバリコブタは風船のように体積が膨張する。そして敦を振り払い、しばらくじたばた暴れ続けると、
ズドドドドドドォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼
口や鼻の穴から激しく火柱を上げ、体内を激しく燃やされる。その姿を見て‶ケモビト族〟の連中は驚愕する。
「あれが今の‶王の騎士団〟の実力……」
スフィアは敦の圧倒的な強さを見てマリアネス王国に希望が見えた。
「さっ、焼き肉パーティーの準備をしようぜ」
‶魔導神装〟を解除した敦は屈託のない笑顔を見せて‶ケモビト族〟にそう言う。




