551話 『ダセェー堕聖霊』
颯太は堕聖霊のジェシールが放つ紫電をまとった光弾を2本の刀で切り裂きながら近づこうとするも、ジェシールは10枚の羽から連続で放っているため、いちいちと切ったり躱したりしても距離が縮まることはない。
「クソッ! 聖霊って言うのはどいつもこいつもあの光の弾丸をぶっ放さないと気が済まねぇのか!?」
颯太は今まで数多くの聖霊を相手にしてきており、そのすべての聖霊が現在戦っている堕聖霊と全く同じ動きで翻弄してくるため、この動きは聖霊界では戦闘マニュアルのようになっているのではないかと疑っているくらい呆れていた。
「だがこいつの対処方法はもう学習している!」
颯太は得意げにそう言うと、手のひらを光弾の弾幕に向けると漆黒の閃光を生成する。
「‶漆黒の魔獣砲〟‼‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼
邪神力を存分に注ぎ込んで放たれた漆黒のレーザー光線は紫電の光弾を全て呑み込み、大爆発させた。
と思いきや、颯太の視界にはまだ光弾は映っており、颯太はそれを見て慌てて飛び出す。
「俺の‶魔獣砲〟で相殺しきれなかった」
颯太はそう呟くと何かを思い出したかのように天井を見上げる。すると先ほどよりもさらに分厚く邪滅結界が張り巡らされてい来ることに気付く。
「あ~あれで俺の‶魔獣砲〟が弱くなってるのか。いや、魔獣砲だけじゃなさそうだ」
颯太は刀にまとわせた‶邪神力〟を見つめながら、すぐに切り替えて戦闘モードに入る。しかしジェシールの‶邪滅神装〟の強さは本物で、彼の斬撃を防ぎきれずに颯太は刀ごと吹き飛ばされていく。
何とか刀を氷床に突き刺して態勢を整えることが出来たのだが、戦力400万の機動力は伊達じゃなく、すぐに距離を詰められる。
「チッ! 休む暇すら与えてくれねぇのかこのダセェーレー!」
颯太は押されながらもひたすら堕聖霊のことをダセェーレーと呼ぶように「ダセェー」だけは強調し続けている。
しかし彼の言うことは分からなくもない。なんせこの堕聖霊と化したジェシールの姿はボディビルダーのように強靭な屈強な体をしていながら、リーナたちですら履かないくらいのフリフリミニスカートを着用しているように見える。
これは邪滅神力のオーラが形を成した結果なのだが、颯太からしたら何ともまぁ醜悪な光景と言わざるを得ない。
「全身は紫の光でコーティングされてっから色だけなら人間とかけ離れた存在には見えなくもねぇが、形だけは大男の変質者でしかないんだよなぁ~」
颯太はJKコスプレをした筋肉質な大男のような一般人からしたら目に毒である姿を見せられて、目を開けてられないほどだった。しかしそのせいでこの堕聖霊に押されていると言っても過言ではない。
「やっぱ気配だけでこいつの攻撃を捌くのには限界があるなぁ。何とかこいつ見た目に耐性が付かないと正気を保つことは……」
颯太はそう言い仕方がなく細目で彼の姿を垣間見るのだが、
「ブッファッファッファッファァァァァー! ヒィー腹痛ぇ! やっぱこいつみると目どころか心臓に悪い!」
案の定颯太は大爆笑する。心の底から嘲笑うという主人公らしからぬ言動をとる。
幸いなことにこの姿になったジェシールには自我がないため颯太がいくら笑おうが彼の耳に届くことはない。もし自我があったのなら彼の心はズタズタに傷つけられていただろう。
しかし自我がないということは戦闘中に感情が表に現れないということである。つまり自我がないということは時として戦況を有利に運ぶことができるということにもなる。
ジェシールは腹を抱えてバカ笑いする颯太に容赦なく斬りかかる。颯太は殺気を察知してすぐに体を逸らすのだが、剣が表彰を切り裂く衝撃で吹き飛ばされる。
「危ねぇ危ねぇ、危うく、真っ二つにされるところだったぜ……って、ギャハハハハハーーーー‼‼‼‼‼」
颯太はつい彼の姿を凝視してしまい2度目の大爆笑をする。しかし彼の声は届いてないはずなのだが、堕聖霊の顔面に徐々にひび割れが大きくなっていく。
(笑うな……私を笑うな……)
堕聖霊の光の殻の中から声が聞こえる。その怒りの声はふつふつと沸き上がるように大きく聞こえてくる。そして……
「私を笑うなぁ! この悪魔がァーーー‼‼‼‼」
目元の殻が粉砕され、彼の右眼が露わになる。それと同時に封印されていた彼の自我が解き放たれ、氷床に映る自分の醜悪な姿を見て発狂する。
「何じゃこの姿はァーーー‼‼‼‼‼」
「あ、正気を取り戻しやがった」
「だがその引き換えに強大な力を手に入れられたのは間違いない。素晴らしい……」
「受け入れるの早っ! 俺もまだ凝視できねぇってんのに」
「私の姿は見られないのか、そうかやはり私のこの美しい姿の前じゃ悪魔は目も当てられないほど神々しいのか? 憐れ」
「美しいほどにきれいな手のひら返しだな。あんな姿、悪魔関係なく万人が爆笑するぞ」
颯太はジェシールの言動全てに辛辣なツッコミを入れる。
「ならばわからせてやる、私のこの嫉妬に満ちた邪滅の力を!」
先程まで呆れていた颯太だったがジェシールが突然ただならぬ気配を漂わせたのを感じ取り、刀を構えて警戒する。
そしてジェシールは剣先から紫電をバチバチと散らしながら閃光を生成させる。その動作は‶魔獣砲〟と瓜二つだった。
「くらえ! ‶嫉妬病の魔獣砲〟‼‼‼‼‼」
ズドォォォォォーーーーーン‼‼‼‼‼
眩しい光と共に紫の魔獣砲が颯太に発射される。その光はたちまち彼を呑み込み、氷の陸地を消し飛ばす。
颯太のいたところには大量の海水が侵入してくる。まるでそこは元から入り江だったと言わんばかりに。
「クッハッハッハーーーー! この程度だったか‶龍斬り〟! だが悪魔である奴に私の邪滅神力は止められるはずもない! まず手始めに‶龍斬り〟の始末に成功した! そして次は君の番だ、メギルド・ブラック・デスターク!」
ジェシールは勝利を確信し高らかに笑いだした。そして出来上がった入り江を後にしようとしたその時、入り江にたまった海水から不自然な泡が吹き始める。
「……デスタークだと? その話……詳しく聞きてぇな」
「こいつ……まさか!?」
バシャーーーーン‼‼‼‼‼‼
高く水しぶきが噴き上がり、海中から颯太が飛び出してきた。颯太は海水でずぶ濡れになった体をお得意の旋風で一瞬で乾かし、ジェシールの方へ近寄っていく。そのとき彼の目はしっかりとジェシールの姿を映していた。
「今の攻撃でやっと目が覚めたぜ。たとえお前がどんなにふざけた格好してたとしても敵は敵だ! もっと真剣に戦わねぇとな!」
颯太はゆっくりと1本ずつ刀を抜き一定の距離まで近づくと足を止める。
「いつその名前を知ったのか、お前をボコボコにした後でじっくりと聞くとしよう」
颯太の顔は先程の爆笑とは裏腹に凄まじい剣幕で彼を睨みつける。同時に彼の体から前例にないほどの邪神力が満ち溢れている。




