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548話 『ジャポニクスの文献』

「おいサーペイド、その辺にしとけよ!」


 サーペイドは颯太にそう言われ、舌打ちしながらジェシールの下へ蹴り飛ばす。


「もう残ってんのはてめぇらだけだぜ! 副ギルドマスター」


「端っからこんな雑魚共に期待なんかしてないよ」


 ジェシールは不敵な笑みを浮かべながら倒れる冒険者を踏みつけ、颯太とサーペイドのところへ歩み寄る。


「10年前、私はギルドの仕事で一度だけ‶未来都市・ジャポニクス〟を訪問することがあった。そこで見たものは、‶天才・ジース・シリコン〟が発明した未来兵器の数々。私はそれを見て感動したことを今でも覚えてる」


 ジェシールが突如自分の過去を語り始めたことに二人は困惑する。


「私は彼に魔獣討伐の知識が欲しいという名目で彼の執筆した文献を読む機会を頂いた。すべては才無き者に才有る者を潰すことができる力を手に入れるために」


 ジェシールは少しの間沈黙すると、自分の手のひらから紫のオーラを放ち、再び口を開いて語り出す。


「その中で見つけた文献は二つ。一つは邪神力の存在についての文献。もう一つはその邪神力の天敵となる新しい魔力についての文献。そう、その文献こそが‶邪滅教〟誕生のきっかけとなったのさ」


「なるほど、やっぱ‶邪滅教〟ってのはぽっと出のエセ宗教だったってわけか」


 颯太はジェシールの話を聞き、妙に納得するのだった。


「確かに、異端児を排除することが目的の宗教なんて長く続くはずなんかねぇもんな」


 サーペイドも颯太に便乗する。


「邪を滅するための魔法、邪滅魔法。これの使用条件は、邪神力に強い憎悪を抱いているということ。だが世間に知られていない未知の力に憎悪を抱くことなど不可能な話。そこでついに私のこの‶捏造〟の力が日の目を浴びたのだ」


 ジェシールは自分の能力を使って家族や友人を失ったトラウマを抱えた人間を集めて、その原因が邪神力を使って破壊の限りを尽くした‶最強の魔龍・ジャグボロス〟によるものだと捏造したのだ。ジャグボロスは数か月前の‶魔人ラボ〟の騒動によって一時的に復活を成し遂げたため、捏造するには都合がよかったのだ。


「別にあの宗教が消えようが消えまいが今更どうでもいいことだ! ただ私はこの世を統べる邪神の者共を葬り去れればそれでいい!」


「邪神の者だと!?」


「そうだ。君もそのうちの一人だよ」


 颯太はジェシールにそう言われ驚きの顔を見せる。横で聞いていたサーペイドも同様の顔を浮かべる。


「『近い未来、この世界は邪神力によって滅ぼされる』全知の力を持つジース・シリコンが書いた文献にはそう記載されていた。最初は疑わしかったがとある光景を目の当たりにしてそれは確信へと変わった」


 ジェシールはこの地で起こった古い出来事を思い出し、再び颯太を睨みつける。


「君のこれまでの成長速度、魔獣魔人との戦績、それらを考慮すれば結論を出すのには時間はいらないはずだろう?」


「なるほど、俺のこれまでの成果が全て邪神力の恐ろしさを証明しているようなもんか。だがな、邪神力だってどんなに恐ろしいかって言うよりも誰が使ってるかによるんじゃねぇのか?」


「確かにどんな能力だろうが軍事力だろうが、使用者の心の清らかさによって大きく変化するだろう。だが邪神力は人の心を喰らうと言われている。だから君がいくら善人だろうが、ここで未熟な今の状態のうちに殺す必要があるとは思わないかね?」


 颯太はその言葉を聞き、目の色が変わるのだった。颯太の目じりは吊り上がり、怒りのまなざしを向けてジェシールをギラギラと睨みつける。


「俺はなぁ、起こるかどうかも分からねぇ可能性の段階で物事を判断する奴らが大嫌いなんだよ。そんな理屈がまかり通ってみろ! 世界滅亡の未来は守れても世界の秩序は守れねぇだろうが!」


 颯太はそう言うと邪神力を解放し、ジェシールに斬りかかる。ジェシールはそんな颯太の斬撃を簡単に受け止め、弾き返す。


「ジースはこの世の現在のことしか知らなかった! 未来のことなんか分かりやしねぇ! そんないい加減な文献なんかに踊らされやがって!」


「全知の人間の予想は凡人の予想よりも真実味が増す。それは誰もがそう思うはずだ!」


 ジェシールはそう言いながら颯太の二刀流の斬撃を全て剣で受け止める。サーペイドはそれを見て疑問に思う。


「あいつが剣術で押されてるだと!?」


「君はこの邪滅結界の中にいることを忘れてやしないかい? けど確かにそれを考慮したとしても、凡人の僕が天才の君に敵うはずがないんだがね。いや、天災だったかね?」


 ジェシールは颯太を煽りながら颯太の邪神力の込められた斬撃を剣で跳ね返す。颯太は舌打ちをし、決着を急ぐかのように漆黒の旋風を放つ。しかしその旋風もジェシールの一振りによって相殺される。


「実にこの邪滅魔法は興味深い。邪神の者への憎しみが強ければ強いほど力が増していく!」


「なるほど、そのために無駄な会話をしてたのか!」


「そうだ。そんな下らない雑談で抱いた憎悪ですらここまで力を引き上げてくれる!」


 ジェシールは高らかに笑いながら自分の額に魔力を当てる。


「だったら私の‶捏造〟の力で架空のトラウマを創り出し、憎悪を引き上げたらどうなると思う?」


「おい、待て! そんなことをしたらお前の自我が……」


「そんなものなんかどうでもいい! 君を殺せるのなら自我なんてものは……必要ない!」


 ジェシールはそう言い、自分の能力を‶特級教徒〟の2人にも分け与える。


「‶邪滅神装〟」


 ズドォォォォォーーーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼


 激しい紫電の柱が3つ立ち並びこの島を取り囲む邪滅結界の層がみるみるうちに厚くなっていく。


「う、嘘だろ? あの姿は間違いなく……」


 颯太は光の柱を見て驚愕する。無理もない、この光の先に移る3つのシルエットは間違いなく上の世界に住むあの者の姿そのものであるから。

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