522話 『第三王女の秘めた才能』
煙が収まると、ラメリアの服装が変化しており、真っ白な忍び装束を着用している。しかしそんな変化は些細なことで、彼の背後には同じ姿をした彼が何百人と控えていた。
「これってまさか……」
「ああ、間違いなく‶魔導神装〟だな!」
小言で囁くソマリに敦は苦虫を嚙み潰したような顔で返答する。恐らく彼女たちは‶魔導神装〟というより厄介な分身の数が明らかに増えたことに驚愕しているのだろう。
「お前ら4人同時にかかってこい、それでも俺が弱い者いじめをする構図に変わりないがな!」
「チッ! 言わせておけば! 百人いようが二百人いようが、俺がこの拳で一網打尽にしてやるぜ!」
敦は蒼炎の拳を握り締めラメリア軍団に攻撃を仕掛ける。しかし敦の炎でまとった拳は10人ほどのラメリアに受け止められ、後に控えた30人ほどのラメリアが小刀で敦の体を切り刻もうとする。
「やべぇ! このままじゃ!」
敦は身の危険を感じ、全身をまとっている蒼炎と同化させる。つまり敦の体は一瞬だけ実体をなくし炎そのものになったのだ。それによりラメリアの斬撃は全て敦の体をすり抜け、見事に空振りする。
「むやみに近づいて攻撃すると逆に返り討ちにされるかもしれないわね」
「ああ、あの分身共は本物と同じように戦えるんだもんな。だったら実質強さが何百倍になってると言っても過言じゃねぇよ!」
敦は迫りくるラメリアたちを殴って離れさせるも数が多すぎてキリがない。ソマリもラメリア軍団を氷魔法で凍らせて入るのだが、相手の戦力が235万もあるということでかなり強力な氷を使っているため、魔力消費が激しい。
「強い上に数も多すぎる……これは長期戦になるぞ」
「ええ、骨が折れるわ」
ソマリも‶魔導神装〟をしてミニスカ巫女装束になると吹雪を起こして敵の動きを鈍らせる。
「ソマリさん、私も援護します!」
ユマは杖から風を起こし、ソマリの放つ吹雪の威力を高める。
(どうしましょう、私が今ここで‶魔導神装〟をすれば、邪神力が放たれてあの男を余計に刺激させてしまうかもしれません。でもそちらの方が好都合? 私が激怒した彼を引き付けている間に後のお三方が……)
ユマはそう思っている中、背後から彼の部下たちが接近してきており、剣で斬りかかろうとする。しかしそれを敦が阻止して顔面を蹴り飛ばす。
「お前今、ロクなこと考えてなかったか?」
「ど、どうしてそれを……」
「顔に書いてあんよ! 言っとくが俺たちの戦いに自己犠牲って選択肢は一切ねぇ! 誰かを犠牲にして勝利を収めても、誰も喜ばねぇだろ?」
敦はそう言い炎の拳でラメリアの分身や彼の部下たちを殴り飛ばす。
「ま、そいつを一番わかってもらいてぇ奴には伝わっちゃあいねぇんだがな」
敦は二ッと笑い、回し蹴りで敵の軍勢を払いのける。
「そう言うことだユマ! 私達は全員そろってこの戦いに勝利するんだ!」
リーナもロボット越しから賛同し、大槍を地面に突き刺し、地面から電気エネルギーを放電させる。そしてラメリアの分身たちはその攻撃をまともに受けて吹き飛ばされて行く。
ラメリアは自分の分身がやられる光景を目の当たりにして大粒の涙をこぼす。
「ああ、なんて無残な姿になってるんだ俺よ」
分身能力は自分の数を増やすことができるため戦いの幅をより大きく広げられる優秀な能力であるが、その分身は自分の身代わりでもあるため、自分と同じ顔をした人間がやられる光景を何回も見なければならない。そのやられる姿を見て、自分もやられたらこんな姿になるということを毎回想起させ、どんどんと精神を蝕んでいく。これが分身能力者の致命的な欠点でもある。
「そうさ、俺はこんな自分の無様な姿を何回も見せられて、いつの日か人の命を軽んじるようになったんだな……」
先程まで大泣きしていたはずのラメリアが、今度は突然高らかに笑い始める。
「だからぁ! 俺は自分の死ぬ姿だけじゃなく、人の死ぬ姿も見たくなったぁ! お前らの死ぬ姿は俺とは違うのか?」
ラメリアは口を覆っていた布を力づくで破り、過呼吸状態になる。これは別に息苦しいとかそう言う理由ではなく、殺生に対する興奮が抑えきれないという衝動である。
「さぁ見せてくれよぉ! お前らの死に様ってやつをよぉ!」
ラメリアはそう言いパチンと指を鳴らし、自分の分身を全て消したその瞬間……
バキィィィーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼
巨大ロボットの鉄の拳がラメリアの顔面を吹き飛ばす。
「な、なぜに!?」
「お前が不自然なタイミングで分身を消すから不思議に思ったんだよ。だがやはりそうだったんだな? お前が分身を消す時に指を鳴らす行為、それ自体に特に意味はなかったようだな!」
「なっ!?」
「どういうこと!?」
敦とソマリは思わず声を出してしまう。
「お前の分身は自由に解除できない。つまり分身を出している時間には限りがある、そう言うことだろ!?」
「こ、このガキャァァァ‼‼‼‼」
ラメリアは鉄の拳に殴られながらも神力をまとった小刀で反撃しようとするが、再びもう片方の鉄の拳が彼の顔面に炸裂する。
「お前は時間制限で消える分身をあたかも自分の意思で解除したかのように見せるために、わざわざ指を鳴らしてたんだ! お前の弱点、それは……分身の時間制限だ!」
リーナはラメリアを殴り飛ばすと、両腕に神力を送り込む。そしてその神力は鎧の如く装甲にまとわれてその両腕からはバチバチと黒い稲妻が走り出す。
「あれはまさか……‶超神武装〟!?」
敦は巨大ロボットの両腕から放たれる神力と黒い稲妻を見て驚嘆する。
「ちょ、‶超神武装〟って超国に伝わる神の領域に踏み入れた最強の‶身体強化魔法〟よね?」
「ああ、こいつを使えんのは一神さんや颯太のような強者だけであって、俺もずっと一神さんから教えてもらってるが発動させたことは一度もねぇ。それなのにあの王女ときたら、颯太の使ってるところを見て完全に自分の物にしやがったな!」
「まさかリーナさんって……天才!?」
「かもな、それにその戦いのセンスは、颯太よりも上かもな」
敦は‶大和村〟時代の颯太のことを知っている。颯太はひと目見ただけで師匠である雨宮湊の動きを真似られたことはない。その代わり血もにじむような努力を繰り返すことで彼の技術を体得することが出来た。
周りの人間が颯太を天才天才ともてはやすが敦だけは彼のことを努力の人間と認めている。
だからこそ、敦はリーナのことを素直に天才と呼ぶことができる。
「お前のような奴をパンチ一発で終わらせられると思ったら大間違いだぞ!」
リーナは宙に舞うラメリアにそう怒鳴りつけると、バチバチと黒い稲妻を放つ両拳で連続で殴りつける。
ズドドドドドドドォォォーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
マシンガンの如く放たれるパンチにラメリアは抵抗する余裕すらなくボコボコに殴り続けられる。
そして最後のアッパーカットの一撃がラメリアにクリティカルヒットし、上空に打ち上げられる。
「く……クソがぁ! 俺はあの‶剣豪〟と張り合った男なんだぞ! そんな俺があんなガラクタなんかに負けるなんて、認められるかぁ! こうなったら分身を身代わりにしてこの場から退散を……」
ラメリアが魔力を放出させて分身を生成しようとしたとき、下の巨大ロボットのひざの関節部分がショートし、仰向けに倒れる。
「やっぱ限界だったようだな! だったら今のうちに……」
ラメリアは分身を20体ほど出してどれが本物か分からなくなるようにして逃走の準備に入る。しかしリーナはまだラメリアを狙っているのか、地面に突き刺していた大槍を抜いてラメリアに向ける。するとその大槍が大きく変形し、ライフル銃となる。
「これで終わりだ! ‶雷神の小銃〟‼‼‼‼‼」
巨大ロボが持つライフルの銃口から激しい光と黒い火花が放ち、一直線に撃ち上げられる。
ズッドォォォォーーーーーーン‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼
雷撃を帯びた光の弾丸は遥か高く、花火のように激しい光を放つ。




