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517話 『それぞれの家族』

 ーーその頃颯太とサーペイドは西の海を船を使って渡航していた。


 しかしその場所は辺り一体霧が発生しており、先に見える島はおろか、進んできた航路すら見えなくなるほどだ。


「おい‶龍斬り〟! ここが海の上かどうかまで分かんなくなっちまっただろうが! 本当にこの先にあんのか? ‶魔獣の島(モンスターアイランド)〟ってのが」


 長い間船で移動していたからなのか、相当苛立っていたサーペイドは颯太に向かって怒鳴り散らす。しかし颯太は至って冷静であり、


「ああ、こんな訳わかんねぇとこにあるから隠れんのに打ってつけなんだよ!」


 颯太はそう言うと魔力を一気に放出させる。そして船から飛び上がると、黒刀を抜いてそれを勢いよく振り切る。

 すると颯太の周囲から強烈な突風が吹き掛かり、真っ白に染め上げる霧を吹き飛ばす。


「う、嘘だろ!? 本当に島があったなんて……」


 サーペイドは霧の中に隠れていた巨大な島が突然自分の目の前に現れたことに驚愕する。それほどこの霧が深く、そして広範囲に広がっていると言うことだ。そして船を動かす暇もなく霧は元通りに戻っていき、再び真っ白な世界へと変えられる。


「これで分かっただろ? 目的地はもうすぐそこにあるってことが」


「ああ、疑って悪かったな! それじゃあオールを動かすぞ! もうすぐ日が暮れる」


 サーペイドはそう言うと、2本のオールを勢いよく動かす。颯太も負けじと高速で漕ぎ始める。


 そんな2人を遠くから何隻もの‶邪滅教〟のシンボルを掲げた帆船がゆっくりと追ってゆく。




 ーーそしてリーナたち一行は、永遠と続きそうな広い荒野をモンスタートラックで爆走していく。


荒野はその名の通り地面は割れていたり、所々に岩石が転がっていたりと通常馬車であったら何回も脱輪しそうな荒れた土地なのだが、モンスタートラックのタイヤはマッドテレーンというオフロードに非常に特化したタイプのタイヤのため、全く問題なく最高速度で進んでいく。


「……なるほどな、お前の母親は‶邪滅教〟の連中に殺されてしまったのか」


「はい、それに父が言うには、私は母が持っていた邪神力を強く受け継いでいるらしく、レーフェルやマリアネスに居続けてたら危険だと判断してこの旅の同行を許してくれたんです」


「……」


「おい! お前達ちゃんとユマの話を聞いてたのか?」


 リーナが後ろの座席にそう呼び掛けても誰も返事はしなかった。それも当然な事で、リーナの暴れ馬のような運転を目の当たりにして誰もが気力を失っていた。

 助手席に座るエリーサや2列目に座るロゼと静香、3列目に座るトムに関しては完全に意識が飛んで泡を吹いていた。


「クソッ、あのバカ王女め! 一体どんな運転したらこんな暴走させられんだよ!」


 敦は後頭部に大きなたんこぶをつけて水筒の水をがぶ飲みする。その隣に座るソマリは額を抑えながら回復ポーションを飲んでいる。


「それじゃあそれから7年近くの間ずっと母親はいなかったんだな?」


「はい、でもこの前父がリリシアさんと結婚してくれて本当に嬉しかったんです。父も若くして最愛の人を失ってそれまではずっと心ここにあらずって感じでしたので。だから私許せないんです。みんなから愛されてた母を殺した‶邪滅教〟の方々が」


 ユマは隣でぐったりと寝込んでいるロゼと静香の頭に氷を乗せながら自分の思いを語る。


「そういえばこの前の結婚式の時もリーナ様のお母様のお姿はありませんでしたが、一体……」


 ユマがその話を始めた瞬間、リーナの表情が曇る。ユマはその時、聞いては不味かったのかと不安な顔を浮かべる。


「母は私が生まれてすぐにいなくなってしまったんだ」


「えっ?」


「生きてるかどうかもわからない。ユーナお姉様が言うには超国へ訪問する際に行方不明になったんだって」


「そうだったんですね。私ったら何の事情も知らないでこんな失礼を……」


 ユマはしょんぼりと顔を落とすと、リーナは首を横に振る。


「気にすんな! 物心つく前から母はいなかったんだからあまり気にしてないんだ私」


 リーナはそう言って場を和ませようとするが、やはり沈黙したままだった。


「そうだ! 後ろの2人の家族はどんな人なんだ?」


「ああ、俺の家族はどっちも‶大和村〟に住んでるから着いたら紹介するぜ」


 リーナは敦とソマリの家族構成について尋ねると、敦の方が先に答える。しかしソマリは顔を伏せて冷や汗をかく。


(どうするソマリ・アンタレス! 言えない。私の父親が‶プラチナランク冒険者〟の‶純氷のエッサリー〟で、昔からギャンブル中毒でギルドの報酬の1割を生活費に振り込んで残りを全て競馬に擦っていたことがバレて離婚したなんて絶対に言えない!)


 ソマリは美しい黒髪ショートヘアをクシャクシャに掻き乱しながら最善の打開策を熟考する。


(もしこんな汚点を話してしまえば、私の今まで積み上げてきた生徒会長としての好感度を全て捨てることになる。でもこれを話したら私の地位が下がることになるかもしれないがこの場の悪い雰囲気を明るく楽しい雰囲気に変えることができる! でも私の印象が……)


 どうやらこの女は自分の父親の存在を汚点と思っているようだ。‶プラチナランク冒険者〟と言えば子どもから大人まで誰もが憧れる英雄なはずなのに。


「それでソマリ会長の両親はどんな人なんです? それはやっぱり素晴らしい方なのですね! あの会長のご両親なんだから!」


(やめてぇ! 私の母はいたって普通の貴族だし、父親に関してはギャンブル好きのただのクズだしぃ!)


 ソマリは精神的にかなり追い込まれ冷や汗だけではなく、身震いも止まらなくなる。それを隣で見ていた敦が、


「おい大丈夫か? やっぱあいつの運転で気分が悪くなったのか?」


「い、いえ大丈夫よ! そ、そうね! 私の母は……」


 ソマリは諦めて自分の家族について話をしようとしたその時、







 ズドォォォーーーーーーーーーン‼️‼️‼️‼️‼️‼️‼️


 激しい爆発音が遠くから聞こえる。


 運転初心者のリーナはその音に驚き、ハンドルを勢いよく右に回転させてしまって車がスリップする。


「おい王女! さっさと車を走らせろ! 何か嫌な予感がする!」


「わかったけど私にはリーナって名前があるんだけどぉ!?」


 リーナは敦にそう言われ、ハンドルをすぐに戻して車を走らせる。すると敦の予想通り、数百メートル離れたところから小型恐竜のような魔獣の群れが追いかけてきた。ソマリはその集団を眺めながら、


「なんかよくないことが起きているのかもしれないけどナイスタイミングだわ!」


 1人だけ危機感のないようなセリフを口にするのだった。

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