263話 『歓楽街とトラウマ』
「場所が分かった!? いったいどこなんだ?」
颯太は立ち止まってマカロンから紙切れを奪い取り、文面を凝視した。しかし何回読み返しても一向に答えは出なかった。
「夜はいつも明るい……これはそのままの意味で普段から夜が賑やかな場所を指すんだ。疲れ切った体を癒す……ここでホテルや旅館が考えられるところなんだが、よいこのみんなはちゃんと早く寝ましょうねと言う内容から子供が立ち入ってはいけない場所だとわかる」
颯太はマカロンの話を聞いてなんとなく文面の内容を理解できてきた。しかし最後の「よいこのみんなはちゃんと早く寝ましょうね」と言う内容がいまいちピンと来ていなかった。
「だがホテルや旅館とかは子供とか全然立ち入っていい場所だろ?」
「そう、だからホテルや旅館は候補から外れる。その中で夜体を癒すのに持って来いの場所は……」
「……分からねえ……」
颯太は頭を抱えて唸っていた。マカロンがここまでヒントを与えたのに颯太は何も思い浮かばなかった。それも頭の中で思い浮かべようとしたら何か巨大な壁みたいなものにさえぎられてしまうのだ。
しかしエッサリーはもうすでに今の話で爆弾の在り処を特定することが出来ていた。
「お前本当に分からないのか? 冒険者だったら一回は訪れたことはあるだろう? ‶歓楽街〟」
「か、かんらくがい?」
颯太はその単語を聞いてもどんなところなのか全く理解できていなかった。しかし記憶にはないだけであって颯太の体はその歓楽街と言う場所を覚えていて無意識に身震いをしていた。
「歓楽街行ったことないのか? 女の人と一緒にお酒なんかを飲んだりして楽しむ……」
「……ハヴァ!?」
颯太は完全に思い出したのだ。それも颯太の記憶に残っている出来事は二つ存在していた。
一つはつい最近の出来事でソマリが提案した全校合宿のときの一日目の夜にリーナたちが酒を飲んで欲に飢えた猛獣と化した出来事である。
そしてもう一つの出来事は……
――2年も前の話になる。
颯太は‶ゴールドランク〟の依頼である魔獣の軍勢から村を救った英雄として‶シルバーランク冒険者〟から‶ゴールドランク冒険者〟に昇格した。そして冒険者仲間たちは颯太を祝福するために歓楽街でお祝いパーティを開くことになった。
「え~今日は俺たちの希望の星! ‶旋風の雨宮〟こと雨宮颯太が‶シルバーランク〟から‶ゴールドランク〟に昇格して俺たちの仲間入りしたことを祝して……KP!」
――KP‼‼‼‼‼‼‼‼
KPとは乾杯を略した言い方で当時の冒険者たちの間で流行していた言葉だったそうだ。
「みんなありがとう! 何か雰囲気といい、この店なんか今朝の死闘の疲れがウソみたいに癒されていくよ!」
「その通り! この店で使用している芳香剤はレーフェル尾国にある巨大農園で栽培された特殊なアロマを使用しており、それを吸うと体にたまっていた疲労が分解される効果があるのです。それと他にも特殊な効果がありましてうふふ……」
「どうしたんです?」
不気味に笑う肌の露出の多い美女店員はそう言って颯太に酒を注いだ。この時颯太はこの店が彼の記憶にトラウマを植え付けることになるとは思いもよらなかった。
「うまい! この酒、飲むと疲れた体に染みて魔獣討伐のストレスがどんどん抜けていく!」
「これが当店の三大癒しサービスのうちの二つ目のサービスでございます! 一つ目は先ほどご説明したアロマの香りでお客様の嗅覚を癒します! 二つ目の良質なお酒に酔ってお客様の味覚を癒します。そしてお待ちかねの最後のサービスでお客様の残りの視覚、聴覚、触角を癒して差し上げます」
颯太はそう言って突然押し寄せてくる女性たちに震えおののいた。颯太を連れてきた他の冒険者たちは「よっ! 待ってましたー!」と激しく興奮していた。颯太はこの見たことない仲間たちの姿に恐怖を覚えた。
「そんなに怖がらなくてもいいんですよ。今日は颯太様が主役なのですから私たちの胸に是非飛び込んでください」
「ま、待ってお姉さん、酔った勢いでそんなことをするのはどうかと……やめっ!」
彼の悲鳴は歓楽街の外の静かな世界にまで届いた。
翌日、颯太はボロボロの服装になり討伐して手に入れた報酬も半分以上空の彼方へ飛んでいった。そしてそのまま静まり返った歓楽街の日陰のゴミ捨て場に頭を突っ込んで気を失っていた。体に撃ち込まれたキスマークは記憶には残らずとも純情な当時14歳の颯太の心に深く傷をつけたのであった。




