255話 『ビギナー駄メイド』
――そのころリーナは突然姿を消した颯太に動揺を隠し切れないでいた。
「い……一体どうしたんだ? あいつ」
リーナはそう考え事をしながら自分のクラスの出店へ向かった。
「おかえりなさいませ! お嬢様……ってリーナ様?」
出店の前でお辞儀をしたミーアは少し驚いていた。
「すごい繁盛だな! このメイドで屋台っていうセンスが良かったのかな」
「そうみたいですね~! あとこの店の料理はとても美味しいって皆行ってくれるんですよ~! これも全部雨宮君のおかげですね~」
「そんな話をしていないでリーナ、店を手伝ってくれない? 今人がいっぱい来て人手が足りていないの!」
ミーアの隣でクレープの生地を焼いていたロゼが顎で店の奥へ行けというような合図を送って頼んだ。
「この第三王女である私を顎で使うなんて……まあいいわ! 颯太に一番長く指導してもらった私の実力、今見せてやるわ!」
リーナがメラメラと瞳から火を燃え滾らせてやる気全開で店の奥へ入って着替えた。
黒と白のミニスカートのメイド服姿になって店の厨房へ入ったリーナだったのだが、
「リーナ、あなたは店の外へ行って客引きでもしてくれないかしら」
「……へ?」
「あなたが一番長く颯太君に指導を受けていたのはあなたが全く料理の腕が上達しないからでしょ!? 忘れたの? あなたが作った料理で何回颯太君が死にかけたのか」
「いや、あれはただ私の料理がたまたま颯太の口に合わなかっただけで……」
「違うね! 万人の口に合わないのよ! あなたの殺人料理は。……だから早く客引きでもしてね! 今のあなたにはそれしか取り柄がないんだから」
ロゼはリーナにはっきりとそう言い放って彼女を冷たくあしらった。リーナはもうすでに泣きそうになっていた。
「ねえねえエリーサ、あんたは私の味方だよね? 私の擁護をしてよ! お願い!」
リーナは泣き目になりながら同じ厨房でトッピングをしていたエリーサに縋りついた。
「リーナ様……手伝ってくれるのはとてもありがたいのですが、初日は多くの客から信頼を得るかが重要なのです。だから吐き気を催すような料理を出すわけにはいきませんのでロゼの言う通り客引きの方をお願いします!」
「ぐぬぬぬう……うぅ、もういい……お前たちなんて大っ嫌いだぁぁぁーーーーー‼‼‼‼‼‼‼‼」
リーナはついにエリーサのオブラートに包めていないトゲだらけの発言に心が折れて泣きわめきながら走り去っていった。
エリーサはその言葉を聞いてグサッと心に突き刺さってショックを受けていた。その点ロゼは全く動じておらず、再びクレープの生地を伸ばしていた。
「クソッ! あいつらめ……私を散々馬鹿にしやがって……元を言えばあいつの教え方が悪いからだ!」
リーナは颯太の顔を思い浮かべてイラついていた。
「でもまあ仕方がない……ここは第三王女としてのカリスマ的客引きであいつらをギャフンと言わせるのもありだな!」
リーナはそう呟いて立札を上げて客引きを始めようとしたとき、遠くで全速力で走る3人組を見かけた。一人は全く知らない男で、もう一人の男は一度会ったことのある男だった。そして一番先頭を走る男は忘れようとしても絶対に忘れられない自分の記憶と言う部屋に鎖でガッチリと固めているほどよく知る男だった。
「あれは……颯太!? あいつ、模擬店放っぽりだして何してんの!?」
リーナは立札に力を入れて颯太を凄まじい剣幕で睨みつけていた。
しかしそんな颯太がいつもよりも深刻そうな顔をしながら走っているのを見て、これは何か大きな出来事に巻き込まれているのではないかと悟った。




