201話 『漆黒のメモリー【6】』
魔獣地帯を木端微塵にしたジルジオンは馬に速力を上げさせる魔法をかけて急いでダイハード帝国へ帰還した。
帰還する途中に道先で地割れが起きたり、黒雲からの雷雨に襲われたりと急激な環境変化がジルジオンを阻んできた。
「なんだ!? あの爆発からここら辺……いや、この世界がおかしくなっている!」
ダイハード帝国の方向で起きた大爆発によって悪魔界の環境が一変し、世界は血みどろの闇の世界へと変えてしまった。
ジルジオンは一発の攻撃だけで世界が崩壊しかけたことに驚愕していた。
「急がないと、これが人為的なものだったら国民たちが危険だ!」
ジルジオンの顔には焦りが見えて、苦虫をかみつぶしたような顔をしながら爆撃された場所へ向かった。
大爆発から1時間が経ったころ、ジルジオンはようやくダイハード帝国へ着くことが出来た。しかしそこで目にしたものはとても悲惨なものだった。
「なんだよ……これは!?」
ジルジオンは黒い煙と火の海に包まれて地獄と化しているダイハード帝国を見て戦慄した。
中へ入ると、悲鳴や泣き叫ぶ声が聞こえてきた。倒壊した家の下敷きになって息をしない者もいた。
「なんてことだ! こんなこと……いったい誰が、何の目的で!」
ジルジオンの悲しみはだんだんと怒りへと変わっていった。そしてその矢先にジルジオンは衝撃的な光景を見ることになる。
「ち、父上! お前、父上に何をする!」
ジルジオンがそこで目にした光景とは父である魔王・エスカヴァリンが血まみれの状態で鉄仮面の男に首を握り締められ、そのまま持ち上げられていることだ。
「おや、あなたがジルジオンだね、会いたかったよ!」
「早く父上を下ろしやがれぇぇぇーーーーーー‼‼‼‼」
ジルジオンは発狂し、邪神力を全開にして突進した。鉄仮面の男は手を放してジルジオンの攻撃をひらりとかわした。
そして男は魔力を急激に上げてジルジオンを地面に張り付けた。
「グハッ! この野郎! ぶっ殺してやる!」
ジルジオンは気合で立ち上がり、再び突っ込んだのだが、鉄仮面の男のパンチたった一発だけで撃沈した。
「素晴らしい! 私の魔力を押し返して向かってきたとは! やはり私の見込んだ通りだ! あなた、ぜひとも私のギルドへ入らないか? 私が君を導いてあげる」
ジルジオンは鉄仮面の男の提案が馬鹿馬鹿しく感じて血の付いた痰を吐き出した。
「俺がお前の仲間に! 馬鹿か、どうして俺たちの世界をめちゃくちゃにした奴の仲間にならなければなんねぇんだ? お断りだ!」
ジルジオンは鉄仮面の男を睨みつけながらはっきりと断った。
「私は君のことは生まれたときからすでにマークしていた。私は君の中に眠る底知れない邪神力を引き出すために魔獣地帯を創り出したんだ。私はこの世には存在しない魔樹を悪魔界に遠隔で植え付けていたんだ。魔樹と言うのは光合成で酸素とともに魔素を放出する樹木で魔獣たちは魔樹から放出される大量の魔素を求めて集まる。そして君はその魔獣たちの魔力に釣られて魔獣地帯で魔獣と戦う日々を送った。やはり推測した通り、君は現魔王をしのぐほどの才能を宿していた。だがこれ以上君を成長させると私の手に負えなくなってしまうから今日この計画を実行することにしたんだ」
「偉く俺をほめるじゃねえか! だがそんなに褒めたって俺はお前の下なんかにつくかよ! 俺は誇り高き、ダイハード一族だ!」
ジルジオンは再び立ち上がり、鉄仮面の男に向かって啖呵を切った。その姿にエスカヴァリンはとても感動していた。
「下手に出てみたらいい気になってこのクソガキ。やっぱあなたは私の支配魔法で完全支配する必要がありますね」
鉄仮面の男は怒りをあらわにして手のひらに魔力を集中させた。
しかしその手をエスカヴァリンが弾いてその隙にジルジオンを連れ去った。
「父上、まだ動けたのか! それなら俺と一緒に戦えばあいつを……」
「無理だな」
「えっ!?」
ジルジオンは生まれて初めてきいた父親の悲観的発言に驚愕した。
「どうして……どうしてそんなことを言うんだ! 父上らしくねえぜ!」
「あの爆発を受けてすぐに分かった。俺にはあいつをどうすることもできねえ! おそらくあいつは世界そのものを破壊するほどの力を持っているのかもしれない。そしていずれこの国も、悪魔界も……」
エスカヴァリンはそう言って歯を食いしばっていた。エスカヴァリンは自分の国を救えない自分の無力さにいら立っていた。そして悩みに悩んで出した結論は……
「ジルジオン……お前だけは生き残れ! そしてお前がこの世界の敵を討つんだ! そのために強くなれ! 今よりももっと強くな!」
「父上、それはどういう……」
ズドォーン‼‼‼‼ ズドォーン‼‼‼‼
鉄仮面の男は黒いレーザー光線を生き残っている悪魔たちに発射して虐殺の限りを尽くした。
そしてやっとエスカヴァリンとジルジオンを見つけた。
「見つけたよ! ダイハード家」
「お前がジルジオンに支配魔法をかけるより先に俺が支配魔法をかけたら、お前の支配魔法は無効になる! 支配魔法は重複してかけられないからな!」
「あなた、まさか!?」
鉄仮面の男はエスカヴァリンが何をしようとしているのかすぐに分かった。しかしもう遅かった。
「友情、思い出、力、持つ記憶をすべてそこに封印せよ! ‶メモリーズ・ロック〟‼‼‼‼」
エスカヴァリンはジルジオンの額に手をかざして封印結界を施した。
「父上……これは……?」
「いずれお前は俺たちのことを全て忘れる。その前にこの世界から脱出するんだ!」
エスカヴァリンはそう言うと空間に門を生成させた。
「父上はどうするの?」
「俺は……ちょっくら行ってくる!」
「父上ぇぇぇぇ‼‼ 母上ぇぇぇぇ‼‼ やだよ! 行かないでぇぇぇぇ‼‼‼‼‼‼‼‼」
ジルジオンはそう言いなら泣き叫び、エスカヴァリンの足にしがみついた。しかしエスカヴァリンはそんなジルジオンを力づくで振り払った。その光景を見ていた鉄仮面の男は高らかに笑っていた。
「ハハハハハ‼‼‼‼‼ お前の両親はこの世界を救えない愚か者だ! ギャハハハハハーーー‼‼‼‼‼」」
「愚か者は俺だけだ! ヘレンは関係ねぇ!」
エスカヴァリンは鉄仮面の男の発言に激怒し、邪神力を込めた拳で鉄仮面の男を殴り飛ばした。その衝撃で鉄仮面の男の仮面が外れた。しかしジルジオンはひたすら泣き叫んでいて男の顔を見ることはできなかった。
そこへエスカヴァリンがやってきてジルジオンの後ろに生成された門の扉を開けた。
「最後にもう一度言う。お前だけは生き延びろ! ジルジオン!」
「やだよ父上! 一人で生きていけないよ!」
「大丈夫だ! 人間界には優しい人がきっといる! お前は決して一人じゃない。そしてお前ならいつか……奴を倒せる。だから行けぇ!」
エスカヴァリンはジルジオンに最後の言葉をかけてジルジオンを襟を掴んでそのまま門へ投げつけた。
「父上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
ジルジオンは叫びながら門の中へと吸い込まれていった。
エスカヴァリンはそれを笑顔で見送った。
「達者でな! わが愛する息子よ!」
エスカヴァリンはそう小さく呟いて、門の扉を閉めた。
――ジルジオンは何もない山奥に放り出されてそのまま何日間か眠り続けていた。その間に体から漂っていた邪神力は魔力へと変えて、髪色も徐々に白色から黒色へと変色した。
そして雨が降っている日、ジルジオンが倒れているところに一人の老人がやってきた。
「巨大な魔力を追ってここまで来たのだが、まさかこんなところに子供がいたとはなぁ! それになんだ!? この子は無意識に旋風を起こして雨水を全て防いでいたのか!」
その老人はそう言って倒れているジルジオンを担いで山を下りた。
「……ん? ここは……?」
「目が覚めたか! ワシの名前は雨宮湊。早速だがお前の名前は何という?」
「俺の名前……分からねえ、全く覚えていない。どこから来たのかも全くだ」
「なるほど……記憶を失っているのか……よし! それじゃあワシがお前の名前を名付けてやろう! お前は風を吹かせて雨を凌いでいたから、お前の名は……そうだ! お前は颯太、雨宮颯太だ!」
「雨宮颯太……かっこいいなその名前! 気に入った! 俺の名は雨宮颯太だ!」
この日からジルジオンとしての人生に終わりを告げて雨宮颯太としての人生を歩むこととなる。




