お父様
「レジナルド、何故リリーを抱いているんだ?」
すぐ傍の竜たちがキュウと怯えた。竜が怯えるってどういう事と思ったのも束の間、声を発した人物が彼から私を取り上げた。
「お父様」
竜を怯えさせたのは父だった。
「お父様、話を聞いて」
「いいから、リリーは黙って。さあ、レジナルド。説明してもらおうか」
威圧を放ちながらにじり寄るお父様。
しかし、その空気を壊したのは白金と黒色の竜たちだった。フンッと鼻息を鳴らす。
「なんだ?おまえたち。文句があるのか?」
すると二匹がグアッと口を大きく開けた。他の竜たちも賛同するかのように口を開ける。
「全く、リリーが関わるとおまえたちは私の言う事を聞かないな」
諦めたように大きく溜息を吐くお父様。威圧が収まった事にほっとする。
「お父様、ジルヴァラが私を覚えていてくれたの。それに黒色の竜も」
お父様が私に向かって優しく微笑む。
「竜は気に入った人間は忘れない。私たちよりも賢いんだよ」
「そうなのね。本当に嬉しかったわ」
「それよりどうしたんだ?茶会は終わったのか?」
せっかく幸せな気持ちに浸っていたのに。先程の疲労感が再び襲ってくる。
「ええ。とっても疲れたわ」
素直に愚痴をこぼすと声を上げて笑うお父様。
「ワイルドボアを4頭倒しても涼しい顔をしているおまえが、お茶会如きで音を上げるとはな」
「だって……」
お茶会での事を簡単に話して聞かせる。
「……そうか。やはりそうなったか」
「やはりって?」
「リリーは殿下に気に入られるだろうと思っていたんだよ。何と言っても私たちの自慢の娘だからな」
私を地面に降ろし、笑って頭を撫でてくれる。
「一緒に帰りたい所だが、私はこれから団長会議があるから少し遅くなる。リリーは先に帰りなさい。馬車も待っているのだろう」
「わかったわ。またここに来てもいい?」
「ああ、そうだな。ジルヴァラも黒竜も喜ぶならいいだろう。馬車乗り場まで迷わず行けるか?」
「ええ、大丈夫よ」
「そうか、気を付けて帰るんだぞ」
「はい、またね」
彼にもお礼を言おうとすると、彼の方が先に言葉を発した。
「団長、馬車乗り場までお嬢さんを送ります」
「おまえがか?」
「はい」
「……わかっているだろうな」
「わかっていますよ」
「ありがとうございます。送ってまでいただいて」
「いいんだ。自己紹介もしていなかったから、それも兼ねて送ろうと思った」
そういえば、お互いに名乗っていなかった。今更かよ、という感じだが。
「レジナルド・ゼルガーナだ。竜騎士団の副団長をしている」
なるほど。副団長だったのか。あの竜騎士の人たちが慌てていたのも頷けた。
「リリー・アヴァティーニです。普段は冒険者をしています。どうぞよろしくお願いいたします」
「はは、冒険者の話は聞いている。リリーと呼んでも?」
「はい」
「では私の事もレジナルドでいい」
「レジナルド様」
「様は邪魔だ」
「でも、年上の方ですし」
「レジーと呼ばせようか?」
「……レジナルド」
「ああ」
満足そうにニヤリと笑った彼に、胸がドキリとした。少し恥ずかしい気持ちがして、彼には見えないようにそっと頬をおさえた。
「ところで、年齢を聞いても?」
「16歳になりました」
「デビュタントか」
「はい」
「それで冒険者をやっているのか?」
「はい、飛び級して学校は卒業したので」
「なるほど、優秀だな」
彼の素直な誉め言葉が嬉しい。
あっという間に馬車乗り場に着いてしまう。
「じゃあな」
馬車へ乗り込む私の頭を、ポンと優しく一撫でして去ろうとした彼を、何故か呼び止めてしまった。
「あの」
「なんだ?」
「また、来てもいいですか?」
「ああ、良かったらアイツの名前も考えてくれ。ジルヴァラと付けたのはリリーなのだろう」
「そうですけれど……いいのですか?私が名付けても」
「ああ、その方がアイツも喜びそうだ」
ニコリと微笑んだ彼の顔が、思っていた以上に眩しくて、私はクラクラしてしまった。




