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魔術師は変態

 私の名前を聞いた途端に、目がキラキラしたグランディ様。面倒な予感しかしない。

「ご存じでしたか」

抑揚のない声で返事をするが、本人は全く気付いていない。気にしていないが正解か?


「勿論知っているさ。会ってみたいと思っていたんだ。ローズ嬢から色々話は聞いていたからね。あ、ローズ嬢は学校の同級生だったんだよ。彼女とは卒業してからも、社交界や城で会う機会が度々あってね」


「そうでしたか」

ここから離れてくれなさそうだ。彼は、空気を読まないタイプのようだ。


「まあ、そうじゃなくても君たちって有名だったもんね。アヴァティーニ公爵家、花の三姉妹って。ローズ嬢もね、学校では凄くモテていたんだよ。彼女をかけて決闘が起こったほどだもん。まあ、どちらもローズ嬢無視で勝手にやっていた事で、彼女は歯牙にもかけていなかったけどね」


ヤバい……私の知らないローズ姉様。ちょっと面白い。つい話に耳を傾けてしまう。


「そう言えば、若い先生にも最後に告白されてたな。薬学の先生だったかな。他の令嬢たちには割と人気のある先生だったよ」

やっぱり楽しい。


「でもね、これまたけんもほろろに振られてた。一体、誰だったら彼女のお眼鏡に適うんだろうってよく話題になってたなあ。誰が彼女の心を奪えるんだって賭けまでしてた連中もいたくらい。まさか卒業してすぐに、あっさり結婚するなんて思ってもみなかったよ。しかも6歳も年上の人と」


「お義兄様は素敵な人ですよ」

確かに歳は少し上だが、貴族間では珍しくない差だ。


「それは知ってるよ。彼っていつもニコニコしてるけど、決して不正は見逃さないんだよね。本当に怒らせたらいけない人って、ああいう人の事だと思う。おかげであくどい貴族が得をする事はなくなったからね」

義兄を褒められ、ついニマニマしてしまう。


「わかっていただいているようで、嬉しいですわ」

我慢出来ず、ふふふと思わず笑ってしまった。彼の顔がキョトンとなった。


「ねえ、君って本当に冒険者なの?」

話を突然変えた。私をジロジロ見る。

「そうですが?」

「ランクは?」

「Cランクですけれど」

「歳は?」

「16ですが」


「16歳でCランク?凄いね。ちょっと立ってみてくれない?」

「何故?」

「ちょっとね、確認」

訳が分からない。だが、嫌がってもこういうタイプは食い下がって来るだろう。素直に立ち上がる。


「どれどれ」

自分も立ち上がり、私の肩や腕を触る。完全に変態だ。

「本当にCランク?全然がっちりしてないねえ」

「私はほとんど魔法で対処しますので」

「そうか」

ふむふむと、尚も不躾に触る。


「うわっ!腰、細っ!」

ガシッと両手で腰を掴んできた。途端に彼の首から下を、土の塊が覆った。勿論、やったのは私だ。

「変態は許すまじ、です」

「はは、ごめん、ごめん。つい」

全然悪いと思っていない。


「もう触らないでいただけますか?」

「うん、わかった。善処する」

「……」

「触りません」

彼の言葉が終わると同時に、土の塊も消えた。


「いやあ、凄いね。無詠唱でそのスピード、その威力。冒険者辞めて魔術師団に入らない?」

再び隣同士に座りお茶を飲む。


「入りません」

「えええ、勿体ない。君なら即戦力だよ」

「冒険者の方が楽しいですから」

「そうかなぁ。常に命の危機を感じない?」

「そこまで高ランクではないので、まだそういう気持ちは感じた事がないです。でも、ヒリヒリするのは嫌いではないです」


彼が思いっきり笑った。

「ははは、いいね。ローズ嬢も見た目に反して豪快なタイプだったけれど、君はそれ以上みたいだ。いいね、気に入ったよ」

笑いながら再び私に手を伸ばしてきた。


すかさず両手を手錠のように蔓でぐるぐる巻きにしてやった。

「変態」

「はは、つい」


グランディ様とのやり取りの間中も、周りからの視線は感じていた。しかし今、それ以上の視線を感じる。会場の全ての人たちがこちらを見ているようだ。何故なのかと首を傾げると後ろから声を掛けられた。


「アーチー、なんだか凄く楽しそうだな」


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