好き
シュバルツが降り立ったのは郊外にある小高い丘の上だった。抱かれた状態のまま降ろされる。草原に軽やかな風が吹いて、とても気持ちのいい場所だった。
シュバルツが腰を下ろした腹の部分に、寄り掛かるようにしてレジナルドが座る。
「あの、もう降ろして」
一向に私を降ろそうとしないレジナルドに、抗議の視線を送るが全く効かない。
「どうせ魔力が切れて、動けないのだろう。大人しくしておけ」
図星を突かれ、仕方なくそのまま彼に寄り掛かる。
「疲れた。暫くは急な任務などは遠慮したいな」
はあ、と溜息を吐くレジナルドの顔を見る。
「そういえば、ずっと姿が見えなかったわ。お疲れ様」
「はっ、おまえの父君だよ。浄化が終わったら真っ先に私に後処理を任せて、自分はとっとと娘たちの元へと向かったんだ」
「う、ごめんなさい」
お父様の策略でした。
「ははは、いいんだよ、別に。後処理なんてのは部下の仕事だし、団長の気持ちもわかるしな」
「……ありがとう」
「出立直前に聞いた。リリーたち三姉妹の事。ハイスペック三姉妹だったとはな。まあ、父親がアレだから妙に納得はしたがな」
はははと笑うレジナルド。笑いがおさまると、私の髪にキスをした。
「すまなかった。結局リリーたちに全てを任せてしまったな」
「謝らないで。あれは私たちのなすべきことだと、自然と感じたの。やり切れると頭の奥でわかっていたの。まあ、魔力が底を突いたのは想定外だったけれど」
三人で座り込んでしまった時を思い出して、思わず笑ってしまった。
「リリー」
そんな私を後ろからギュウッと抱きしめるレジナルド。
「ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
真上にある彼の顔が見たくて、見上げると金色の目がこちらをじっと見ていた。そのまま器用に私の唇を奪ったレジナルドは、私を軽々持ち上げて正面に向き直る体勢にした。
「リリー、あそこにいた連中は皆ライバルか?」
オスカー殿下たちの事だろう。
「ライバルって……私が好き、なのはレジナルドだし……」
恥ずかしくて尻すぼみになってしまう。
「それはわかっている。そんな顔をさせる事が出来るのは私一人だという事は」
私の発した言葉をしっかり拾った彼が、私の頬を撫でる。
「だが、アイツらはそう簡単に諦めるもんかという顔をしていた。あわよくば横からかっさらってやるくらいの事を考えているぞ、あれは」
「そんなまさか」
バカバカしくて笑った私の口に人差し指を当てられる。
「奴らとどんな経緯があって、あんなに想われているのかは知らんが、絶対に奴らの前で油断するな」
真剣な顔で諭してくる彼を無下には出来ずに、素直にはいと返事をした。絶対にそこまで気にするような事ではないが。
「わかってなさそうだ」
「え?」
何故バレたのか。至って真面目な顔で答えたというのに。
「存外、おまえは顔に出る」
ずっと頬を撫でていた手が、するりと顎に伸びた。顎を軽く掴まれる。いくらでも逃げられるほどの力加減だというのに、どういう訳だか全く逃げられない。
「リリー。愛している」
そう呟いた口が、私の口を塞いだ。優しくついばむようなキスをされ、呼吸するタイミングがわからず口を開いた途端、食べられてしまいそうなキスをされた。口の中まで翻弄された私は苦しくなって切ない声が漏れてしまう。
すると、心配したのか眠っていたシュバルツの首が起き上がり、レジナルドの顔を私からどかした。
「はあ、はあ」
クラクラしている私を抱きしめながら舌打ちをするレジナルド。
「本当に邪魔ばかり入る」
シュバルツは、自分を睨みながら愚痴ったレジナルドを無視し、私の頬に鼻を擦り付けてくる。思わず私も、そんな彼の鼻先を撫でてしまう。
「一刻も早く婚約を結ぶ。なんならすっ飛ばして結婚してしまってもいいな」
「ふふ、楽しみね」
レジナルドとの生活を想像した私は、それだけで幸せを感じ、自然と笑顔になった。
「その為には、まずは団長という一番大きな壁をどうにかしないとな」
私の笑顔に釣られて笑顔になったレジナルドは、シュバルツの鼻先をどかしながらもう一度、私に口づけたのだった。




