収束
「随分と楽しそうだね、お嬢さん方」
ザック義兄様と冒険者の何人かが、私たちを探しに来てくれた。
「あはは、ザック。私たち、もうほとんど魔力が残っていないのよ。立てないの」
「そうか。三人とも、本当にお疲れ様だったね」
ザック義兄様は軽々とカメリア姉様を抱き上げた。
「俺たちなんかでいいのかわからねえけど、森から出るのを手伝うぜ」
姉様たちを呼びに走ってくれた冒険者の彼と、その相棒らしき男性がそれぞれ私たちを抱き上げた。
「ごめんなさいね。面倒な事を」
「いやいや、こんなに綺麗な人を抱き上げる栄誉を与えられた事に感謝しているくらいだ」
少し照れたように言う彼に釣られてこちらも笑う。
無事に森の外に出ると、お父様がちょうどジルヴァラから降りた所だった。
「三人とも、大丈夫か?」
傍にあったベンチにカメリア姉様とローズ姉様が座る。私も座ろうとしたら、ジルヴァラにクウと鳴かれたので、彼女の足元に座らせてもらった。ジルヴァラは嬉しそうにゴロゴロ言っている。
「よくやったな、三人とも。流石、私の天使たちだ」
順番にハグされる。
「お父様、他の皆はどうしたの?」
「ああ、今皆で素材の剥ぎ取りをしている。今回は城からの緊急クエストとして扱う事にした。素材を集めるだけ集めて、全てをギルドから城が買い取るという形を取る。それプラス報奨金を用意して、今回、戦いに参加してくれた冒険者には、後日まとめてギルドから渡してもらうようにした」
「それは素敵ね」
「ああ、カーターの発案だよ」
「ふふ、やっぱり。流石は私の旦那様だわ」
ローズ姉様が言うと、まるでタイミングを見計らったかのように、お義兄様が走ってきた。
「ローズ!」
真っ直ぐローズ姉様めがけて走ってきたお義兄様は、その勢いのままローズ姉様を抱きしめた。
「ああ、ローズ。良かった、ケガはないようだね。信じてはいたが、気が気でなかった。やっと城から解放されたから、急いで来たんだ」
「カーター、ありがとう。私は大丈夫よ。私よりもカーターの方が、顔色が悪いわよ」
ローズ姉様が、お義兄様の乱れた髪を整えると、その手を掴んだお義兄様が、手のひらにキスをした。
「お帰り。よく頑張ったね、ローズ」
「ええ、ただいま」
再び抱き合う二人。そのままの体勢でこちらを向いたお義兄様。
「カメリアとリリーも。本当によく頑張ったね。守ってくれてありがとう」
「ふふ、いいえ。ついで感が半端ないけど」
カメリア姉様と二人で笑っていると、キャルム様がやって来た。まだ少し顔色が悪いようだが、しっかりと歩けているようだ。
「皆さん、本当にありがとうございました。この度は愚かな父のせいで、このような惨事になってしまって……申し訳ありません」
当の本人は逃げようとまでしていたというのに。すぐ近くで括りつけられているインファーナ司教を見ると、キャルム様を睨みつけている。
「お前が告げ口したのだな。この役立たずが」
「その通りですよ。私がギルドに駆け込みました。教会を出ようとした所で頭を殴られましたが……つい先ほど、司祭が私に土下座をしましたよ。あなたに、自分を追う奴がいたら襲えと言われたと。もしやらなければ、司祭を続けなくさせてやると脅されたとね」
「くそっ、どいつもこいつも……聖女もそうだ。何が全てを浄化してみせる、だ。全然出来なかったではないか」
悪態を吐く司教にキャルム様が怒鳴った。
「ふざけないでください!!私は何度も言いました。彼女は魔力が弱いから聖女にはなれないと。聞く耳を持たずに過剰な夢を抱いたのはあなた自身の愚かさ故だ!」
「キャルム様」
静かに呼ぶと、ふうっと息を吐いた彼がこちらを向いて、力なく笑った。
「すみません。お恥ずかしい所を……」
「いいえ、キャルム様。そのような事は全く思っていません。それよりもあまり頭に血が上ってしまうとまた倒れてしまいます」
歩けない事がもどかしい。せめてと笑って見せる。
「そう、ですよね。こんな男のためにせっかくあなたに治して頂いた身体が貧血で倒れるなんてバカバカしいですよね。ありがとうございます、リリーさん」




