王城へ
『見られている』
行きかう人々皆に、上から下までジロリと見られる。
『そんなに変なのかしら?』
お母様とローズ姉様には絶賛されたのだが……身内びいきというやつだったのか。そんな事を考えていると、正面から見知った顔が、ニコニコしながらやって来た。薄い色の金の髪がサラサラ揺れている。
「リリーじゃないか?どうしたの?そんな格好して」
「お義兄様」
ローズ姉様の旦那様だった。彼はとても優秀で、王城で宰相補佐をしている。
「ねえ、お義兄様。このドレス変?」
私が聞けば、お義兄様がハシバミ色の目をパチクリさせる。
「変?とんでもないよ。とても美しい。神々しいと言っても過言じゃないよ。女神かと思うくらい」
「本当に?」
「本当だよ。どうしてそんな不安そうなの?」
「だって、皆がジロジロ見るんだもの」
眉間にしわが寄ってしまう。
「あはは、それはねえ。リリーが綺麗過ぎるからだよ」
私の眉間のしわを指で伸ばしながら笑う。
「綺麗過ぎるからついつい見てしまうんじゃないかな。本当に綺麗だよ。自慢の義妹だ。だから自信を持って。何をしに行くのかはわからないけど」
とても宰相補佐をしているとは思えない、この柔らかい雰囲気。私の肩の力が抜けた。
「お茶会に行くの」
「ああ、お茶会か。そう言えば今日だったね。そうかあ、これは大変な事になりそうだ」
持っていた書類を小脇に挟んで私の肩に手を乗せる。
「今日のリリーは誰が見ても素敵だよ。間違いない。だから人の視線なんて気にせず楽しんでおいで」
この義兄はポヤポヤしているのに、彼の言葉はどうしてなのか心にストンと収まるのだ。
「ありがとう、お義兄様。楽しんでくるわ」
「うん、行っておいで」
手を振って義兄と別れた私は、もう人の視線を気にする事はなくなった。
会場に到着しても、相変わらず視線は感じるが、もう気にはならない。
席に着けば、すぐにお茶が用意された。お茶を飲みながら、周囲を観察する。男女共に、バランスよく集められているようだ。多分、皆、婚約者がいない者たちなのだろう。
「あら?」
一人だけ異質な雰囲気の人がいた。黒いフード付きのマントを着ているのだ。流石にフードは被っていなかったが、明らかにお茶会にわざわざ来たと言う出で立ちではない。
「魔術師団の方だわ」
胸の紋章が見えた。杖を交差させた魔術師団の紋章だった。退屈そうに、長く伸ばした緑の髪を、くるくると指でいじりながらぼおっとしている。黒い瞳はどこか神秘的だ。線は細いが美しい顔をしていた。
『男女どちらにもモテそうね』
そんな失礼なことを考えていると目が合った。じっとこちらを見ている。すぐに視線を逸らせれば良かったと後に後悔する事になるのだが、タイミングを逃した私は望んでいないにもかかわらず、見つめ合う形になっていた。ふと、彼の口元がニヤリとしたのが見えた。慌てて視線を逸らせたが、時すでに遅し。彼が真っ直ぐこちらにやって来た。
「ねえ、じっと私を見ていたよね。どうして?」
思っていたよりも、声が低くて少し驚く。
「偶然です。別に意味はありませんわ」
感情を乗せずに喋るが、どうやら興味を持たれてしまったようだ。
「へえ、君って魔力が多いね」
「はい?」
「もしかして自分でわかってないのかな?君の魔力、魔術師団の中でも上位の者たちと同等、いや、それ以上の魔力を持ってるよ」
「そうですか」
知らなかった。幼い頃に計測したきりだったので、正確な数値は把握していない。しかし、ギルドの討伐依頼を受けても全く気にせずに使えるだけの魔力は確かにあった。
「無自覚なんだ。そんなに魔力を持っていて気にしないって、大物だね」
それが大物に結びつくのかは、甚だ疑問である。
気が付けば、ちゃっかり隣に座られてしまった。
「私はアーチー・グランディ。魔術師団で、副団長の一人だよ」
魔術師団は大きく三つに分かれている。一つは研究班。純粋に魔法の研究をする人たちの集まりだ。二つ目は討伐班。魔物の討伐などで、騎士団と共に戦う人たちの集まり。三つ目は護衛班。王族や他国からの使者の方を守る人たちの集まり。
この三つの班にはそれぞれトップがいる。それが、副団長の三人。若く見えるのに、副団長という地位にいるという事は、彼は随分と有能のようだ。
「リリー・アヴァティーニです」
「君がリリー嬢か。冒険者をしているという噂の」




