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ぬけぬけと

 彼の視線の先には、カメリア姉様の腰を抱いているザック義兄様がにこやかな顔で立っていた。


「リリーにあんなに親し気に接していたくせに、違う女の腰を何故抱いている?」

飛び掛かりそうな勢いのレジナルドに笑っているザック義兄様。

「違う女って失礼だな。彼女は私の大切な婚約者だよ」

「なんだと?リリーは遊びだとでも言うつもりか?」

完全に勘違いをしている。ザック義兄様もわざとちゃんと説明していないように見えるし。


ニッコリとだけして特に何も言わないザック義兄様。レジナルドの殺気がこれ以上ない程膨れ上がった。

「ちょっと、レジナルド。落ち着いてください」

「落ち着け、だと?この男だろう、リリーと買い物していた男は」

「そうですけれど」


「殺す」

静かに威圧を放ちながらレジナルドが言った。私はパチンと音を立たせて彼の頬を両手で覆った。


「レジナルド!ちゃんと見てください。腰を抱かれている人を」

「あ?それがどうした?その女が何だって言うんだ」

うん、完全にブチ切れている。狂犬ならぬ狂竜だ。


「よく見て!私に似ているでしょう」

「……」

大人しくカメリア姉様を凝視したレジナルド。これで分かってくれるはず、かと思いきや驚きの発言。


「全然似ていない。リリーの方が何倍も綺麗だ」

ボボンッ。こんな時に私の顔面が爆発した。恥ずかし過ぎて死ねそうだ。


「これは、流石に私が許せませんね。リリーも美しいですが、カメリアはもっと美しいですよ」

「は?貴様、よくもリリーの前でぬけぬけと言えるな」

もうダメだ。さっきからローズ姉様とお義兄様は、お腹を抱えて笑っている。助ける気は更々ないらしい。カメリア姉様も死ぬほど笑うのを堪えていて……ブサイクになっている。


「もう、二人とも落ち着いて!ザック義兄様、ふざけ過ぎ」

「あれ?わかっちゃった?」

「ぶはっ」

その瞬間、思いっきり噴出したカメリア姉様。


「その人、リリーしか見えてないじゃない。本人の前でよくもぬけぬけとって、自分もぬけぬけと言い切っているくせに」

大笑いです。綺麗なドレスが台無し状態。


「カメリア姉様、今すっごいブサイクよ」

ローズ姉様もカメリア姉様を見る。

「あはは、ホント、そのバカ笑いはやめなさい。アイザックに見限られるわよ」

「大丈夫。それすら可愛いと思っているので」

それは良かった。今更返されたくはないもの。


ずっとわからない顔をしているのはレジナルドだ。

「彼は私の義兄になる人、カメリア姉様の婚約者の方です」


「初めまして……は変かな。アイザック・ディートリンド。リリーの姉君であるカメリアの婚約者だ」

「ディートリンド……今、騎士団で剣の稽古をしている御仁とはもしや?」

「そう。私だよ。君の事はよく知っているよ。隣国でも有名だ。ずっと乗り手のいなかった黒い竜の乗り手となったスーパーエリート。最年少で副団長になった男ってね」


「申し訳ない。てっきり……」

「ははは、そう思うように仕向けた訳だしね」

「え?」

ザック義兄様の言葉に疑問を抱いたレジナルドに、次に言葉をかけたのはお義兄様だった。


「どうだった?リリーが他の男に触れられている様を見た気分は?」

「……最悪、でした」


「だろう。そう思ってもらうように仕向けたんだ。リリーのためにね。あの日、帰ってきたリリーは大泣きしていたんだよ。それこそ子供の時以来だったらしいよ、あんなに泣いたのは。帰ってきて姉たちを見た途端に泣き出したリリーは、屋敷に戻った私たちを見て再び大泣きした。聞いてみると原因は君だ。しかも本人はきっとわかっていない。リリーが怒って帰ってきた理由を」


「はい、わかりませんでした」

「曲がりなりにも私たちも多少、女性から言い寄られていた経験がある。だから君の感覚はわかっていた。問題だったのは君がそれに気付かない、という事だった。だからね、一計を案じたんだ。君がリリーと同じ立場になるようにね」


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