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彼の後悔

「え?何!?」

私の身体は誰かに抱きしめられていた。

「リリー」

低く掠れた声に、腰の辺りがゾクリとした。間違いようもない。レジナルドだ。


「リリー、会いたかった……まだ私が嫌いか?」

切ない声にドキリとさせられるが、ここはダンスエリアだ。じっとしているなんて邪魔以外の何物でもない。周りの視線が痛い。


「レジナルド、とにかくこの場から離れましょう。ダンスはしないのだから」

途端にスッと抱き上げられ、テラスへと連れて行かれてしまう。テラスから庭へと続く階段を降り、近くにあったベンチに私を抱き上げたまま座るレジナルド。どうやら私を放すという選択肢はないようだ。


「あれから団長に、リリーに近づくなと接近禁止命令を出されてしまった。どうしてなのかわからなかったが、カーター殿が俺に言った。リリーを泣かせたからだと。その時は泣きたいのは俺だと思った。いきなり大嫌いだと言われたまま会う事が出来なくなって。リリーが怒った理由が全くわからないまま会う事を禁じられた」

私の肩に顔をうずめるレジナルド。


「初めのうちは理不尽だと怒ってさえいた。だが、見たんだ。仕事で街を巡回している時だった。リリーが他の男と親密そうに店に入って買い物をしていた。アクセサリーをリリーの胸元に着け、髪にも頬にも触れていた。リリーも嬉しそうに笑っていて。腸が煮えくり返る思いだった。しかもその後、カフェでも隣同士で座り、手に口づけ、口元のチョコを取っていた。仕事の途中じゃなかったら、乱入してあの男を殺していた」

声が震えているけれど、言っていることが物騒過ぎる。


「そこでわかった。リリーの言っていた事が。他の男に触れさせているリリーを見て初めてリリーが怒っていた理由がわかった」

顔を上げ、私をじっと見るレジナルド。金色の瞳が揺れていた。


「すまなかった。リリーに不快な思いをさせていた事に気付きもしなかった。他の異性に触れられている姿を見ると、あんなに嫌な思いになるとは知らなかった。もう絶対にさせない、だから許してくれ」


どうしよう……竜のように不遜ですらあった彼の態度が今は見る影もない。叱られてしょぼくれたワンコのようにすら見えてしまう。ワシャワシャしたい衝動に駆られる。もうここは衝動に従う事にしよう。


うなだれた彼の頭をいきなりワシャワシャする。初めて触れた彼の髪は、サラサラでしなやかだった。セットしていた髪が見事にくしゃくしゃになった彼にニッコリと笑いかける。

「これで許してあげます」

自分の髪がどんな状態になっているか知る由もない彼がキョトンとした。


「それだけ、なのか?」

「それだけって……レジナルド、すごい髪型になってしまっていますよ。やった私が言うのもなんですが」

笑いながら髪を元に戻す。手櫛だから限界があって、多少崩れている。それが逆に魅力的に見えてしまうのは何故?


ギュッと再び抱きしめられてしまった。ちょっとだけ苦しい。

「リリー」

艶めいた声色で名前を呼ばれる。


彼の金色の瞳がキラキラ光り出した。その美しさに思わず見惚れていると金色が近づいて来た。すぐ目の前まで近づいた金色にびっくりしていると、背後から緩い声色が聞こえた。


「ストーップ。それ以上は、お父さん許しませんよ」

声の方を見ればお義兄様たちだった。


「お義兄様」

「ふふふ、世の父親たちの気持ちがわかってしまったよ。許したくなくなるものだねぇ」

「もう、カーターったら」

ローズ姉様たちが笑っている。


しかし、一人だけ笑っていない人がいた。

「レジナルド?」

声を掛けても一点だけを見ている。いや、睨んでいる。殺気が凄い。


「貴様……」

黒い大地を流れるマグマのような声が夜の庭に響き渡った。


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