王妃様とお茶会
舞踏会から数日経った。
今、私たちはお母様と三姉妹揃って、王城にいくつかある中庭のうちの一つにいる。大きなガラス張りのガゼボというのか、サンルームというのかわからないが、その中でのお茶会。風を避け、日差しが降り注がれるせいか気持ちがいい。
カメリア姉様が久しぶりに帰国したことを知った王妃様が、私たちだけを呼んでお茶会を開いたのだ。完全なプライベートである。
「カメリア、改めて婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「ディートリンド公爵と言ったら、お隣で1,2位を争う程のイケメンと噂の殿方でしょ。最近公爵を継いだのよね。それに、王国騎士団の部隊長だったかしら?いい人を捕まえたわね」
「いいでしょ」
お母様が答えた。
「いいなぁ、ローズもカーターでしょ。次期宰相候補よ。陛下でさえ彼の言う事は素直に聞くのよ。二人とも本当にいい人を。羨ましい、三人も娘がいて。私なんて男の子しかいなくて。つまらないわよねえ、男なんて」
「王太子妃様がいるじゃない。隣国の王女様だし、とっても綺麗だし、素敵な方じゃない」
「そうなのよ。完璧すぎてつまらないのよ。私はもっとこう、一緒にドレスを選んだり、こっそり街に出かけたり、恋バナしたりしたいのよお」
「要は構って欲しいって事でしょ」
「そう。その通り。だからね、リリーちゃんがオスカーといい感じにならないかなあって思っているの」
火の粉が飛んできた。私かい。
「話し相手ならいつでもなりますよ」
笑顔で誤魔化してみた。
「そのついでにお嫁に来ない?」
ついででお嫁ってなるものだったかしら?しかも王子妃。
「今ねえ、リリーちゃんは色々大変なのよ」
「なにが大変なの?」
「それがね……」
嬉々として話し出したお母様。もうこうなると誰にも止められない。
「ええ!?何々。モテモテなの?しかもうちの子も入っているじゃない。なにそれ、楽しい」
「私の一押しはゼルガーナ様なのぉ」
「ちょっと、そこはオスカーって言ってよ」
「殿下はその次」
ああ、盛り上がっております。これ、私たちいる?
「王妃様、お母様。私たち少し席を外しますね」
ローズ姉様、ナイス!
「ふふ、いいわよ。今、物凄く楽しいから」
王妃様のその一言で、無事に戦線離脱出来ました。
「ああなると、きっと長いわよ。私、カーターの所に行って来るわ」
「あ、じゃあ私は騎士団の訓練見てくる。リリーも行きましょう」
「うん、わかったわ」
ローズ姉様と別れて騎士団棟へ向かう。
「ディートリンド様ってやっぱり強いの?」
「ええ、王国騎士団の中で5本の指に入るって言われているわよ」
「それは凄いわね」
「ふふふ、いいでしょ」
「はいはい」
騎士団棟の敷地に入るとすぐに訓練施設がある。外の訓練場であれば、見学は割と自由なのだ。
「で、未来のお義兄様はどこ?」
「そうねえ、見当たらないわねえ」
「ここだよ」
後ろから声がして振り返ると、アイスブルーの瞳を細めて笑うディートリンド様がいた。
「ザック」
嬉しそうに名前を呼ぶカメリア姉様の頬にキスを落とすディートリンド様。ラブラブで何よりだ。
「お茶会は終わったのかい?」
「まだよ。王妃様とお母様で盛り上がっているから席を立ったの。ザックは訓練終わったの?」
「これからだよ。見に来てくれたの?」
「ええ」
「嬉しいな。リリー嬢も?」
「ええ。もうお義兄様になるのだから、リリーって呼んでください」
「それは嬉しいな。お義兄様と呼んでくれるのかい?」
「勿論。お義兄様が二人だとややこしいから、ザック義兄様でどうですか?」
「ありがとう、嬉しいな。うちは男兄弟だからね、妹が欲しかったんだ。敬語もいらないからね、リリー」
「了解よ。ザック義兄様」
そんな会話をしていると、横から声を掛けられた。
「あれ?もしかしてリリー嬢か?」




