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ヒロインなのか悪役令嬢なのか

 私の目をじっと見るカメリア姉様。思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。


「あなた、悪役令嬢じゃなくてヒロインのポジションになっているんじゃないかしら?」

「……はい?」

「彼らの行動が、なんだかヒロインで起こるはずのイベントと似ているのよ」


「……じゃあ、皆ゲーム通りに動いているだけって事?」

ヒロイン云々より、その事にショックを受けてしまう。だって、そうだったとしたら……嫌だ。それではまるで私自身に興味を持っているわけではなく、ヒロインという立場の者にはする義務のように感じてしまう。レジナルドもそうだったのかと思うと胸が痛い。


「リリー、もしかしてその中で、好きになった人が?」

カメリア姉様にハンカチでそっと頬を拭われた。泣いてしまったようだ。そのままカメリア姉様に抱きしめられる。


「ごめんね。私の言い方がまずかったわ。あくまでも似ているだけ。ゲームとは違う。だってオスカー殿下もアーチー様も、それにゼルガーナ様もゲームでは贈り物なんてしていなかった。それにそもそもの出会いがゲームとは違うもの」

抱きしめながら私の頭を優しく撫でる。


「私はパニックを起こして、結果的にゲームという縛りから抜けたくて逃げる選択をした。これが本当にゲーム通りだったら、そんなことは出来なかったはずでしょ。しかも、私はゲームとは全く関係ない人を好きになった。リリーだって、本当ならゲームに登場すらしていない人物だったのよ」


カメリア姉様は抱きしめていた腕を緩め、私と向き合った。

「だから、リリーはそのまま。リリーらしく突き進んで。私は相手が誰でも全力で応援するわよ」

カメリア姉様の笑顔に釣られるように私も笑った。


「で、相手は誰なの?」

「……秘密よ」

怖っ、ポロっと言ってしまう所だった。思わずお義兄様を見てしまう。お義兄様はニコッとしてくれた。


「カーター」

ローズ姉様が色気オーラを放つ。

「あなた、知っているわね。リリーの想い人」

「知らないよ」

「嘘。今のアイコンタクト、見逃さないわよ」


「本当に知らないよ」

「素直に吐きなさい。じゃないと……襲うわよ」

「嬉しい申し出だけれど、皆が見ているからね」

「もう、口が堅いわね」

「それが私の売りだからねえ」

「ま、なんとなくはわかっているけれど」

流石お義兄様。宰相補佐をしているだけのことはある。頼れるお人です。ローズ姉様の言葉は聞こえないっと。


「まあ、あれだ。例えリリーが悪役だろうと、ヒロインだろうと私たちは、皆リリーの味方であるのは変わらない。リリーを害するような輩がいるならば、相手が誰であろうが全力で排するのみ。それでいいな」

「はい」

家族皆の声が揃った。


「お父様は、相手がリリーの想い人であろうが排除しそうだけれどね」

ローズ姉様がぼそりと呟く。

「ふふ、それは仕方ないわよねえ。だって、カメリアは隣国だったから邪魔するまでもなく決まってしまったじゃない。カーターはそつがない人だから、上手く丸め込まれちゃったし。そうなると、最後の娘の相手はもう誰であろうが憎らしいって思っているのよ、きっと」


「男親って大変よね」

「あら、カーターだって娘が出来たらなるわよ。既に義理の妹でああなのだから」

ふふふと二人で笑い合う。


「いいか、街ではギルド長に頼むしかないが、城では常に目を光らせろよ。教会の男以外は皆、城にいるからな。ディートリンドはどうするんだ?暫くこちらにいるのだろう」

「どうぞアイザックと。私は騎士団で稽古をさせて頂こうと思っています。あちらでも騎士団の部隊長ですので」

「そういえばそうだったね。では私から話を通しておきましょう。友好国ですし、新たな剣の稽古の相手が出来れば喜ぶ者もいるでしょう」


「騎士団ならマルキオーロという男に注意しておけよ」

「はい」


「リリー。カメリア姉様にだけそっと教えてごらん」

「嫌、姉様には一番教えたくない」

「ほお、そんな事言っていいのかな。例えゲームとは違っていても、攻略法を知っている姉は心強い味方になるとは思わないかね?」

「思わないもん。それに、まだ好きなのかわからないの。ちゃんと自覚出来たら皆にちゃんと言うわ」


「ふっ、リリー初めての恋を知るってやつね」

「……やっぱり姉様には言いたくないかも」


そんなそれぞれの会話が弾む中、慌ただしかった一日が終わろうとしていた。



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