姉様の代わりって?
嫌な予感しかしないそれを、恐る恐る開けてみる。
「どちらも凄いね」
「ホント、アピールが半端ないわね」
どちらにもカードが添えてあった。是非、デビュタントで身に着けて欲しいという事だった。
「イエローダイヤのネックレスと、エメラルドのネックレス。どっちにする?」
お母様が満面の笑みで聞いてきた。
「どっちもないから」
「ええええ。つまらない」
ガッカリと肩を落とす。
「お母様はどちらかと、どうにかなって欲しいの?」
「ん?別に。ただ、面白いなあって。恋の三角関係」
「三角で収まるかしら?」
ローズ姉様が軽く爆弾を落とす。
「え?何々?四角?それとももっと?」
怖い、怖いから。
グイグイくるお母様を両手で押さえていると、お父様が帰ってきた。
「どうした?楽しそうだな」
これが楽しく見えるとは、お父様はお母様しか見ていないらしい。
「うふふ、オスカー殿下と、グランディ侯爵のアーチー様からプレゼントが届いたのよ」
「なんの?」
「どちらもご自分の色をしたネックレス。デビュタントで着けてって」
一気に黒いオーラが周囲に漂った。
「リリー、どちらか受けるつもりなのか?」
低い声。威圧入ってるから、怖いから。
「受けないわ」
途端に空気が戻る。
「よし、ならば二人には私から返しておこう」
ニヤリと魔王の微笑みのお父様。もう一人、ニコニコした人が手を上げた。
「義父上殿、私も一緒に行きますよ」
「そうだな、二人でしっかり返そうじゃないか」
めっちゃ怖い。私は知らないぞ、と。
「面白そうね。私も見に行きたいわぁ」
ローズ姉様って好きよね、そういうの。
ついつい遠い目になってしまっていると、お母様がまたもや「そういえば」と何かを出した。
「ジャーン。カメリアちゃんからのお手紙よ。近いうちに婚約者のディートリンド公爵と一緒にこちらに来るって」
「え?本当に?いつ?」
「多分、王城主催の舞踏会の後になるって」
「そっかあ、楽しみね」
「あ、手紙にね、リリーちゃん宛の物が別に同封されていたわよ」
お母様から渡された手紙。私個人宛というのは初めてだった。
「何かしら?」
早速、読んでみる。
【可愛いリリー、冒険者として頑張っているみたいね。そんなリリーには申し訳ないのだけれど、これから書くことを頭に入れておいてね。
もしかしてリリーは5人の男性に出会ったりした?あと街のどこかでミルクティー色の髪と目をした男爵令嬢に会わなかったかしら?
あのね、戻ったら詳しい事を話すけれど、これからきっと色々面倒な事が起こるかもしれないの。私の代わりに……
リリーはとっても強い子だからきっと大丈夫だと思うけれど、とにかく頑張って。今きっと何言ってんの?って思っているでしょ。でも、もし出会いを完了しているならあり得るかもしれないのよ。抽象的すぎてわからないだろうけれど、とにかく頑張って。姉様は応援しているから。
因みに5人の男性というのはね。オスカー・バウドーラ、アーチー・グランディ、アーロン・マルキオーロ、キャルム・インファーナ。最後がレジナルド・ゼルガーナ。この5人。もし出会っていたら覚悟を決めて。くれぐれもミルクティー色の彼女には気を付けて。絶対に苛めたりしちゃダメよ。まあ、リリーがそんな事をするなんて考えられないけれど】
読み終わった私はわなわなしてしまう。
「なあに?何が書かれていたの?」
小首を傾げたお母様にそのまま手紙を渡す。
「どういう事なのかしら?よくわからないけれど、オスカー殿下とアーチー様には会ったわね」
回し読みした最後はお父様だった。
「……レジナルドにも会ったな」
「ねえリリー、もしかして他の二人にも会った?」
ローズ姉様の質問に無言で頷く。
「ミルクティー色の令嬢にもかい?」
お義兄様の質問にも再び頷く。
「何が起こるのかしら?」
「カメリアに一刻も早く帰ってこいって返事を出しましょう」
二人が心配するような口調になる。
正直。そこは、別に気にしていない。何かというのが、何なのか知らないが、例えその何かが起こっても、大抵の事には対処できるだろう。最悪、私は冒険者なので、いざとなったら旅に出てしまえばいい。しかし、身体はわなわなし続ける。
だって……だって……
「姉様の代わりってどういうことよぉー!」




