ミルクティー色の令嬢
教会へ戻るとインファーナ様が出迎えてくれた。
「お疲れさまでした。いかがでしたか?」
応接室のような部屋に通される。
「はい、森に少し入った所から半径500メートルの範囲にいたホーンラビットは殲滅しました。数にして100前後です。あとは様子見ですね。流石に一気に仲間が減った事で警戒すると思うので、無闇にこちら側には来ないと思います」
「そんなにたくさん……やはりリリーさんは凄いですね。ありがとうございました。さ、まずはお茶にしましょう」
「あ、その前に祈りを捧げてきてもよろしいですか?」
「はい、勿論です。ではこちらでお待ちしていますね」
応接室を出て、礼拝堂へ向かう。中に入ると祈りを捧げている女性が目に入った。ミルクティー色の柔らかそうな髪、肌は抜けるように白い。祈りが終わったのか彼女が顔を上げてこちらを見た。髪と同じミルクティー色の瞳がパチパチとした。
彼女は立ち上がり私とすれ違う。その直前、彼女が小さく呟いた。
「悪役令嬢」
思わず振り返ったが、彼女はこちらを見る事もなく礼拝堂を出て行った。
「アクヤクレイジョウ……って何?」
聞いたことのない言葉に私の頭の上にはクエスチョンマークが散らばっていた。
祈りを終わらせて応接室へ戻ると、先程の令嬢がいた。インファーナ様の腕にぴったりと絡みついている。
「リリーさん、戻られましたか。あ、彼女はですね、聖女候補の方なのですよ。シモネッタ男爵の令嬢でして、クララ嬢です。ほら、クララさん。ご挨拶を」
「クララ・シモネッタです。よろしくお願いいたします」
まずまずのカーテシーだ。
「このような格好で御前に出る事をお許しください。私はアヴァティーニ公爵家三女リリー・アヴァティーニでございます」
ドレスではないので騎士の礼を取る。
「リリーさん、まだ彼女は聖女ではありませんので、畏まる必要はないのですよ」
そう笑ったインファーナ様。
「さあ、もうお帰りなさい。今日のノルマは終了したのでしょう」
シモネッタ嬢に帰るように促す。
「キャルム様、それでは話が違います。今日は街に一緒に行ってくれると約束していたではありませんか」
私が討伐に来てしまったために、彼女との約束を反故にしてしまうという事か。
「ごめんなさい、私がクエストで突然来てしまったばかりに。どうぞ約束をしているのなら優先してあげてください。私も討伐は終わりましたし、報告をしにギルドに戻りますので」
さっさと席を立つ。インファーナ様が止めるが首を振る。
「レディとの約束は守らなければいけませんよ。では、またいずれ」
彼が尚も私を呼び止めるが、笑顔でサラッと躱した。
『ああ、怖かった。めちゃめちゃ睨まれてたわ』
シモネッタ嬢と名乗っていた令嬢が、恐ろしいほど睨んでいたのだ。
「触らぬ神に祟りなし、よね」
「ふっふっふ」
満面の笑み。どんなに律してもニヤニヤが止まらない。
「教会様様だったわ」
ホーンラビットの角は、薬になるのでギルドが買い取ってくれる。しかも角には一つも傷つけずに討伐したため状態がいいという事で高値がついた。
「いいボーナスが手に入ったし、お土産買って帰ろうっと」
人気のスイーツ店でお土産を買い、屋敷に戻るとお母様が出迎えてくれた。
「お帰りなさい、リリー」
「ただいま。お母様、お茶にしましょう。お土産を買って来たの」
「あら、素敵ね」
家令にも箱を渡す。
「皆にも買ってきたから、あとで配ってあげて」
「お嬢様……ありがたく頂戴しますね」
珍しくお義兄様も帰って来ていたので、四人でお茶にする。
「どうしたの?お義兄様がこんなに早く帰って来るなんて……はっ、まさかクビに?」
「リリー……姉様を怒らせたいの?」
「冗談です」
「ははは、あと少しで舞踏会の準備に入るからね。その前に休めるだけ休もうって話になったんだよ」
「なあんだ、そっかあ」
「リリー」
「はい、ごめんなさい」
ローズ姉様が怖い。
「あ、そういえば」
お母様が思い出したように立ち上がる。キャビネットの上に置かれていた二つの箱を私に渡す。
「これは?」
「ふふふ、オスカー殿下とグランディ侯爵家のアーチー様からよ」




