討伐依頼
「こんにちは」
ギルドに顔を出す。
「あら、リリーちゃん、いらっしゃい。おススメあるわよ。というか、出来ればリリーちゃんがいいって」
マリーさんが依頼書を見せてくれた。
「教会かあ……」
依頼先を見て溜息を吐く。同時に思い出すのは先日の天使のような彼。名前は確かキャルム・インファーナ。なんだろう、面倒な予感しかしない。
「どうする?嫌だったら他に回せるから無理しなくていいわよ」
マリーさんが尊い。しかし、彼女に面倒をかけるのは忍びない。
「内容はなんですか?」
「ええとね、ホーンラビットが集団発生しているって」
なるほど。これは魔法でケリをつけた方が早いだろう。
「わかりました。私が行きます」
「いいの?なんだか気乗りしていなそうだけれど」
「大丈夫です。一気に片を付けますので」
「やあ、リリーさん。お待ちしていましたよ」
待っていたのはやはり、キャルム・インファーナ様だった。
「ホーンラビットが大量に発生したと伺いましたが?」
「ええ、そうなのです。裏の森で暴れまわっていると、信者の方たちから教えて頂きまして」
私たち冒険者からすれば、ホーンラビットは恐れる程のモノではないが、一般の人たちからしたら怖いだろう。
「わかりました。教会周辺にいるものを討伐、そういう事でいいでしょうか?」
「はい、それで結構ですよ」
「では、早速行って参ります」
森へと向かおうとすると、インファーナ様に呼び止められる。
「リリーさん、終わったら少しお話したいことがあります。お時間いただけますか?」
ニコリと微笑む彼は、やはり天使に見える。
「わかりました。終わりましたら」
断る理由が思いつかず了承した私を見た彼は、神をも魅了できるのではと思えるほどの笑顔を見せた。
森に入るとなるほど、そこら中を駆け回っているホーンラビットたち。もしかしたらワイルドボアが減った事と関係しているのかもしれない。それにしても凄い数だ。
彼らは瞬時に戦闘能力の高い人間を察知する。明らかに強い人間には襲ってこないのだが、そうではない人間には集団で襲うといういやらしい性質なのだ。
「この数に襲われたら流石に大ケガするわね」
私には襲ってこない彼らをどうやってまとめて討伐するか。
少し考えて結論を出す。
「疲れてしまうけれど、それが一番的確かな」
地面に両手を置く。半径500メートルの範囲で索敵。ホーンラビットのみを探す。私の頭の中の地図には、凄い数の赤い点がある。そのまま魔力を放出し続ける。全ての赤い点に魔力が到達したことを確認して、更に集中する。
「スピナ」
小さく詠唱すると地面から無数の棘が飛び出た。そして次から次へと赤い点が消えて行く。しばらくすると、索敵をかけた所の赤い点は全て消えた。
「ふう」
索敵と攻撃の合わせ技で、流石に疲れた。しかし、まだ終われない。討伐したホーンラビットたちを回収しなくては。
「スパーツィオ」
夜空色に煌く狼を創り出す。アイテムボックスと連動しているこの狼に、ホーンラビットだけを回収するように指示する。
「行っておいで」
声を掛ければ美しい色の狼は、疾風のように駆けて行った。
「ああ、疲れたぁ」
彼が帰るまで少し時間がかかるだろう。私は草の上に大の字になった。
「こんな姿、お母様が見たら卒倒ものよね」
お母様が、泡を吹いて倒れる姿を想像して笑ってしまう。
ひとしきり笑うと、ふいに黒い竜騎士の彼を思い出した。
「黒色の竜に名前つけるのだったわ。何がいいかな」
ジルヴァラの時は実に単純だったのだ。銀色に光って見えたからそのままジルヴァラと名付けた。
「黒色の竜もやっぱり色にちなんだ方がいいかな」
せっかくの珍しい黒色なのだ。ジルヴァラのように色繋がりで付けたい。しばらくウンウンと考える。
「うん、決めた」
一人満足して呟いたのと同時に、夜空色の狼が帰って来たのだった。




